2016 Fiscal Year Research-status Report
カフカース諸語とロシア・ソヴィエト言語類型論の研究
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15K02513
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
柳沢 民雄 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (80220185)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ロシア・ソヴィエト言語類型 / カフカース諸語 / 言語類型論 / 音韻論 |
Outline of Annual Research Achievements |
カフカース諸語の研究から、ロシア・ソヴィエト言語学の遺産である言語類型論を解明することを目的とする。2つの分野を解明することを目的とする。(1)音韻論の分野:P. K. ウスラルとN. F. ヤーコヴレフの音素概念はカフカース諸語研究のなかでいかに研究されたのか。(2)形態論と統語論の分野:I. I. メッシャニーノフを中心とするソヴィエト言語類型論者の研究におけるカフカース諸語の役割を明らかにし、「段階理論」を解明する。 平成28年度の研究実績は以下のようである: (1)音韻論の分野:P. K. ウスラルの『アブハズ語』(1887) などのカフカース民族誌シリーズの著書によって、ウスラルの音素概念の萌芽を調査した。これと昨年度に活字化したN. F. ヤーコヴレフの『カバルダ語の音声一覧表』を使って、ヤーコヴレフの音素の確定方法を比較し、音素概念の形成過程を調査した。さらに平成28年度は現代ロシア語の音韻論の主要な学派である、「モスクワ音韻学派」の理論を調査し、これとヤーコヴレフの音素論を比較した。(2)形態論と統語論の分野:メッシャニーノフの著書『言語についての新学説:段階的類型学』(1936) と『一般言語学:語と文の発達における段階性の問題によせて』(1940) を使って、メッシャニーノフの「言語類型」の概念の変遷過程、文構造の類型の種類と言語類型の基準、言語類型の段階性の方向を調査した。これ以外に、平成28年度は現代ロシア語の文法理論にソヴィエト類型論学派の影響を調査し、それを纏めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目的の通り、P. K. ウスラルの『アブハズ語』をはじめとするカフカース民族誌シリーズの著書を用いて、音論を調査し、これとヤーコヴレフの音素論と比較することができた。ヤーコヴレフの音素論はモスクワ音韻学派との繋がりが深いので、これとの関連でロシア語の音韻論を調査し、これに関する文献を翻訳出版した。この翻訳には詳細な注を付けた(P.ギャルド著『ロシア語文法:音韻論と形態論』平成29年3月出版、ひつじ書房)。形態論と統語論の分野では、前年度のカフカース諸語の能格性を踏まえて、メッシャニーノフの理論を調査し、能格構文についてかなり高度な議論がなされていることを確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は以下のように推進する計画である。 音韻論については、ウスラルの音素概念とヤーコヴレフの音素概念を比較しながら、ヤーコヴレフの音素概念の作成過程を明らかにする。そしてヤーコヴレフの音韻論が、プラーグ学派やモスクワ音韻学派の人たちにどのように影響を与えたかを解明する。例えば、音素と異音の扱い方、原音素の概念、位置的な異音の概念、正書法の問題、軟口蓋軟子音の音素認定の問題等を検討する。形態論と統語論については、カフカース諸語の能格性と段階理論を手掛かりに、以下の項目について纏める方針である。1.メッシャニーノフの共時的な統語論研究における言語類型の概念の変遷。2.言語類型の段階性の方向の問題。通時的な言語類型の問題。3.言語類型の遺物的形態と遺物的構文の問題。
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Causes of Carryover |
外国での資料調査を複数回予定していたが、予定していた調査が1回しかできなかった。そのために計上していた旅費が使用できなかったことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度には外国での調査を複数回行う計画であり、旅費として使用する計画である。
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Research Products
(3 results)