2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K02515
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
吉田 豊 京都大学, 文学研究科, 教授 (30191620)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ソグド語 / バクトリア語 / シルクロード / 金石文 / イラン語 / 禅宗 / 景教 |
Outline of Annual Research Achievements |
一昨年度より継続して,ソグド語圏で発見される金石文の解読研究をすすめている.昨年度は,現在申請者も発掘に参加しているキルギス共和国のチュー川流域の,キリスト教(景教)の教会の遺跡でかつて発掘された壺に書かれたソグド語銘文の解読を行い,そこに書かれた日付を同定し,それが西暦811年9月25日に刻まれたことを明らかにすることができた.その成果は,ソグド語圏におけるキリスト教信仰を扱った論文で発表した.これ以外には,立正大学のチームがウズベク共和国のカラテペ遺跡で発掘した陶片に書かれたバクトリア語の銘文を解読し,その成果を報告書の一部として発表した.バクトリア語はソグド語と深い関係にあるイラン系の言語であるが,草書のギリシア文字を使って表記されており,きわめて希少な資料である.偶然遭遇した資料ではあるが,日本人が発掘した資料を日本人として解読できたことは幸いであった. ソグド語金石文の研究としては,やはりウズベクのサマルカンド付近で発掘された印章の銘文を解読し,それが突厥の王妃の所有する印章でアリ,7世紀初めのものであることを明らかにした.その成果は,2016年5月にフランスの最も権威ある研究機関であるCollege de Franceにおける招待講義で紹介した.別にモンゴル高原にあるカラバルガスン碑文のソグド語版の研究を進めている.まだ成果を発表できる段階ではないが,次年度の成果発表への準備になった. これら以外にも,ソグド語文献の研究も行った.とりわけ漢文の禅宗文献のソグド語訳を発見し,それをもとにしてソグド地方における仏教信仰の位置づけについての見解を論文として発表した.ソグド地方では,仏教遺跡は発見されておらず,そのことは,ソグド人が移住先で仏教徒になったことと関連することを明らかにすることができた.またアメリカで刊行されているイラン学百科ではソグド語文法の項目を執筆した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ソグド語を表記するソグド文字は本来草書体の文字で金石文には不向きである.特に時代を経て表面が風化したり破損した場合,文字の判読はきわめて困難になる.従って確実に解読できる銘文類はそれほど多くない.従って多くの成果を望めないことは当初からそのことは織り込み済みである.その状況で,一つのキリスト教ソグド語の銘文の年代を比定できた事は大きな収穫であった.ソグド人のキリスト教信仰の絶対年代が知られた初めての例になったことも特筆に値するであろう.また,偶然ではあるが立正大学のチームが発掘したバクトリア語を書き込んだ陶片文書を解読できたのは,全く予期していなかっただけに大きな収穫であった. 金石文とりわけ貨幣や貴金属の器に刻まれた銘文の場合,偽物が多くマーケットに出回っていることは常に注意しなければならない.昨年12月には,イギリスのN. Sims-Williams教授から鑑定を依頼された銀器の銘文が贋作であることを示すことができた.これによりソグド語金石文の研究資料を増やしたことにはならないが,偽物が研究対象になるという事態を未然に防ぐことができたという意味で,重要な貢献であったと思っている. 昨年夏にはキルギス共和国での発掘調査に参加する予定であったが,日本言語学会の夏期講座を担当することになり参加できなかったことは残念であった.ただキルギスで出土する貨幣を個人コレクションを調査する機会があり,銘文を解読することができた.この地域の支配者の歴史を考えるうえではきわめて重要な情報を含んでおり,この成果を近く発表する予定である.また同じように成果を論文として発表できなかったが,サマルカンド近郊で発掘されたきわめて保存状態の良い印象についての研究を,College de Franceでの講義で紹介し,専門家からのフィードバックを得られたのは幸いであった.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は最終年度であり,そのことを考慮してこの3年間の研究成果をまとめることと,それを発表することに努めたいと考えている.とはいえ,研究自体に終わりはなく,今まで行ってきた研究を続けていくこととに変わりはない.6月にはロンドンで開催される国際学会で,西安で出土したイラン語と漢文のバイリンガル碑文について口頭発表を行う予定である.9月にはイタリアのトリノで開催される国際マニ教学会において,キルギス出土の未発表ソグド語銘文にも言及しながら,中央アジアのマニ教史に関する研究を発表する計画である.また昨年度は実行できなかった,キルギスでの現地調査を8月の夏休み期間に行う予定である.これは現在帝京大学が,チュー川流域で行っている発掘と表面調査に参加するもので,新たに発見された銘文類の調査が主な目的である.秋以降はこれまでの成果のまとめと,京都大学が保管している,カラバルガスン碑文(モンゴルにあったウイグル可汗国時代9世紀初めに掘られた3言語併用碑文)の古い拓本に含まれているソグド語資料の解読を進める.昨年来,大阪大学名誉教授の森安孝夫氏と共同で,保存状態が良い漢文版の研究を進めているので,漢文版とソグド語版の比較が主な作業である.ちなみにもう一つは古代トルコ語であるがこちらは破損してほとんど残っていない.帝政ロシア時代にロシア隊が作成した拓本は現在エルミタージュ博物館に保管されていることを,同館の学芸員であるP. Lurje博士から教えていただいた.ロシア側も研究をすすめているので,何らかの段階で共同研究できれば良いと考えている.ハンブルグ大学のチームが同じくモンゴルで撮影したブグト碑文(西暦600年頃)の画像は当初利用できる予定であったが,残念ながらまだその段階に至っていないという知らせを昨年12月に,ドイツ側のD. Maue博士から受け取った.
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Causes of Carryover |
昨年度は,夏休みにキルギス共和国での現地調査を行う計画あったが,申請者の所属する日本言語学会の夏期講座の歴史言語学の当初の担当者が病気になり,その代わりに講師となったために,予定していたしていた発掘調査に参加できなかったことが大きい.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は,キルギス共和国での発掘調査に参加するだけでなく,海外で行われる学会での発表も計画しており,その旅費として支出する予定である.
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Research Products
(5 results)