2016 Fiscal Year Research-status Report
インドネシアにおける民族語とマレー語変種の使い分け状況および地域特徴の研究
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15K02531
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Research Institution | Meisei University |
Principal Investigator |
内海 敦子 明星大学, 人文学部, 准教授 (70431880)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | マレー語口語変種 / インドネシアの民族語 / 記述言語学 / 社会言語学 / プロソディ / 情報構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、スマトラ島のインドネシア語口語変種についての分析を行い、調査はバリ島においてインドネシア語口語変種について行った。インドネシア語の民族語とマレー系の言語と国家語であるインドネシア語との関係について分析し「インドネシアにおける民族語の展望」という紀要論文にまとめた(発行は2017年4月)。 平成27年度の3月にスマトラ島のジャンビ市においてインドネシア語口語変種の調査を行い、データを収集した。その結果、語末の/a/音が/o/音になることが多く、改まった場面においてもこの特徴が高い頻度で現れることが分かった。同様に語末の/a/音が/o/に変化するジャワ語の話者によるインドネシア語と比較した結果、ジャワ語話者がインドネシア語を話す際には/a/音が/o/になることはあまり観察できないことが分かった。従ってこの現象はスマトラ島の一部の話者に特徴的なものであるようである。 現地調査は、バリ島において8月に行った。この調査においては、バリ島のインドネシア語口語変種において、能動態と受動態がどのように分布するかを調べた。短いビデオを見せてそこで何が起こっているかを説明してもらった。その他に、自由に仕事や文化について語ってもらった。これらを書き起こし、分析した。その結果、バリ島においては/a/音が/o/音になるなどの母音の交替が見られない事が分かった。また動詞の形態については接辞meN-のうち/me/の部分が現れず、語基の最初の子音が鼻音化するだけという動詞の形態が改まったインタビューの場でも使用されることが確認できた。 インドネシアの民族語についてはバンティック語の新しい情報を示すマーカーについての知見をまとめ、国際インドネシア言語学会で発表した。その他、オーストロネシア諸語の「米」「風」「鉄」「助数詞」について東京外国語大学AA研で行っている「アジア言語地理学会」にて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度に予定していたスマトラ島の調査は調整がつかず実行できなかったが、その代わりにバリ島での調査を実行した。インドネシアの各地の言語を研究している研究者と意見交換を行い、インドネシアとマレーシアにおける国家語の地位と状況、それぞれの国における「民族」の概念と用語など、重要な事項について知識を共有した。 言語データに関しては27年度に行ったジャンビ市の調査に加え、ジャワ島の話者のデータを加えることができ、さらにバリ島における自然発話のデータを得ることができた。 今後の研究に欠かせない「民族語」「国家語」「マレー系の民族語」「マレー系のクレオール」などの概念を整理し、インドネシアにおける多様な言語状況を地域ごとに区別して分析することができた。 態の交替については、バリ島におけるデータを基に分析を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は三回の研究出張を計画している。一回目はマレーシア半島の西にあるランカウイ島での調査である。マレーシアにおけるマレー語は主に北の方言、南の方言、東の方言に分類できるが、ランカウイの方言は北の方言に分類される。ここでは国家語たるマレーシア語の影響が各世代のマレー語にどのように現れているかを観察する。 二回目の調査はスマトラ島のランプン市において行う。ランプンは、土着のマレー語系の民族語(ランプン語)が話されているが、その他ジャワ民族の大きなコミュニティが存在する。ランプン語の話者とジャワ語の話者が多数を占める一方、国家語のインドネシア語が話されている。ランプン市では社会言語学的な調査を行い、各世代の言語使い分け状況を調査し、また自然発話を採取する。 三回目の調査は、茨城県における北スラウェシ州出身者のコミュニティにおいて、マナド方言と、マナド人の話すインドネシア語口語変種の採集を行う。マナド方言はインドネシア語標準変種と大きく異なっているが、その異なる方言の話者が、改まった場面でインドネシア語を話す際にどのような特徴を示すのかを分析する。 これらの調査においては行動の連鎖を写した短いビデオの説明と、自由発話(家事・仕事・文化・教育など身の回りの物事について話してもらう)の二種類の談話を採取する。 これらの調査の知見をまとめ、東京外国語大学AA研において行っているプロジェクト「マレー語方言の変異の研究」研究会で発表するほか、国際マレー・インドネシア語シンポジウムなどの国際学会で発表する。地域方言における態の交替や、音韻の変化について適宜論文にまとめ、学術雑誌に投稿する。
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Causes of Carryover |
予定していた茨城県におけるマナド方言話者のコミュニティの調査が、調査協力者との調整がつかずに行えなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度の8月から10月のいずれかの時期に調査協力者と調整して調査を行う予定。
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