2018 Fiscal Year Research-status Report
言語実践としての明治中後期の翻訳と近代イデオロギーの構築
Project/Area Number |
15K02533
|
Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
坪井 睦子 順天堂大学, 国際教養学部, 准教授 (40640470)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
齊藤 美野 順天堂大学, 国際教養学部, 助教 (90745936)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 翻訳研究 / 近代イデオロギー / 相互行為性 / 活字メディア / テクスト / コンテクスト / 談話分析 / 明治期 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は、研究代表者および研究分担者が各々専門とするメディア翻訳と文学翻訳に関するこれまでの研究を発展、統合する形で、翻訳の相互行為性と多層性を探求することを目指すものである。とくに本課題が焦点を当てるのは、19世紀後半の日本における近代イデオロギーの構築過程と言語行為としての翻訳との関連である。すなわち、明治中後期において、当時の知識人たちが、それまでは日本になかった "nation" および "nation" に関わる西洋近代の諸概念と遭遇し、それらをいかに解釈、翻訳し、「国民」「民族」など新たな日本語の語彙として形成、普及、定着させていったかを、活字メディアに表象されたさまざまなテクストとそれらを取り巻く当時の社会・文化・歴史的コンテクストとの関連から考察し、翻訳という言語実践の社会行為性を明らかにすることを目的としている。 初年度からの3年間は、新聞、雑誌、辞書、学術書等における翻訳語の使用状況を調査するとともに、明治中後期に活躍したジャーナリストや知識人による新聞および雑誌記事、論説等の非翻訳テクスト、翻訳に関するメタ・テクストに表れる翻訳語について、テクストを取り巻くミクロ・マクロレベルのコンテクストから分析する作業を進めた。こうした作業を基盤とし、今年度の平成30年度はより緻密な文献研究と談話分析を進め、その成果を国際学会で積極的に発表することに努めた。また、前年度末に国際学術誌へ投稿した共同論文が修正の上、掲載が確定したのを承け、残された課題についてあらためて整理、検討を行った。他方、翻訳研究をさらに進めるために必須と考えられる原文テクストと翻訳テクストの対照作業が、両者の揃うテクスト入手が困難であったため難航していたが、今年度はその一部が入手可能となりこの面でも新たな展開があった。現在その分析を進めるとともに、共同論文執筆に取り掛かっている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」箇所で述べた通り、本課題は、明治中後期における近代イデオロギーの構築過程と言語実践としての翻訳の相互行為性を探求するものであり、その研究方法の中心となっているのが文献研究と談話分析である。文献研究は、活字メディアを介した様々なテクストを当時の社会・文化・歴史的コンテクストとの関連から分析する本研究にとって、談話分析の基盤ともなるものであり研究の重要な軸となっている。これまで、翻訳と近代イデオロギーの関連についての文献を丁寧に読み解く作業を重ねる一方、歴史学、人類学、哲学・思想、政治学、社会学等、多岐にわたる国内外の人文社会諸科学の文献を整理するために多くの時間を要してきたが、今年度は分野や範囲を絞り込むことで漸く整理の目途が立ってきた。 他方、明治期に出版された雑誌、新聞、学術書、辞書などの様々な活字メディアの中から分析の対象とする非翻訳テクストを探す作業については、当初より概ね順調に進んできたが、翻訳実践を考察する上で必須と考えられる原文テクストと翻訳テクストとの比較のための基礎的なデータを探し出す作業が難航してきた。また当初の計画では、文献整理・補助を担う人材の確保を想定していたが、研究環境の制約によりその実現が困難な状況が続いた。こうした問題が少なからず進捗状況や研究計画に影響を及ぼす一因となった。 上記を承け、研究の遂行可能性の観点から、今年度は計画の大幅な見直しと変更を迫られることになったが、その後は大筋で順調に推移し、複数の国際学会での発表、国際学術誌投稿論文の採択等での実りにつながった。当初は今年度が最終年度の予定であったが、こうした活動から得た新たな知見を最終的には国内の研究、とりわけ翻訳研究、およびその関連領域に還元したいと考えるに至り、補助事業期間を延長することを決め、最終年度の研究成果をまとめる計画に入っている。
|
Strategy for Future Research Activity |
上記「現在までの進捗状況」において報告した事由により、予定より研究がやや遅れていたため、研究計画を見直し、研究成果を実現可能な形でまとめられるよう軌道修正を行った。その結果、今年度は概ね計画通りに研究を進めることができ、国際学会での発表、国際学術誌での論文採択等につながったと考える。当初は、この時点で最終年度としての研究報告をまとめる作業にとりかかる予定であった。しかしながら、今年度の研究活動から得た新たな知見を国内の研究にできるかぎり還元する方策を模索したいと考えるに至り、補助事業期間を延長することを決断した。 延長した時間を有効に生かしていくために、研究代表者と研究分担者がこれまで探求してきた翻訳の諸理論、および関連諸領域の理論の応用可能性をさらに探りながら、とくに両者の研究の統合という視点からより精緻な研究につながる道筋を整えていきたいと考えている。現在、国内の学会誌への共同論文を執筆中であり、加えて本研究の集大成という観点から共著としての研究成果物の編纂に取り組む計画である。
|
Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」および「今後の研究の推進方策」において報告した通り、今年度は、最初の3年間で生じた諸々の問題により研究の進捗がやや遅れ、研究計画の一部見直しを余儀なくされた。その結果、主として人件費および物品費の使用計画に変更が生じた。研究実行可能性という観点から研究計画を変更した後は、基本的に計画通りに研究を進めることができた。当初は今年度が最終年度の予定であったが、海外での学会発表等を通して得た知見を国内における翻訳研究、および関連領域の研究に論文等の形で生かすべく、補助事業期間の延長を決断するとともに、併せて次年度への繰り越しを行うこととした。繰り越し分を次年度の研究遂行に必要な文献の拡充と、最終的な研究成果物の編集補助等のための費用に充当することを計画している。
|
Research Products
(4 results)