2016 Fiscal Year Research-status Report
感情形容詞の意味と構文に関するドイツ語・日本語対照研究
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15K02534
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
室井 禎之 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (60182143)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 感情形容詞 / モダリティー / 日独対照 / 脱他動化構文 / individual level |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度の成果である次の4点を出発点としてさらに研究を進めた:1) 感情形容詞はドイツ語において経験者は主として主格または与格で実現し、対象は経験者が主格で出現する場合は前置詞句、経験者が与格であるときは主格で現れる、 2)ドイツ語では感情形容詞と心理動詞とは並行した構造を持つ、3)日本語では経験者がもっぱら主題(助詞「は」をともなう句)で現れ、対象は「が」格をとる; その際、感情形容詞は対象の省略可能性および助詞「に」の付加の可能性によって下位区分される、4) 日本語では可能構文と意志構文が感情形容詞と並行的な構造を持つ。 特に上記の4) 踏まえて28年度は特にモダリティー的含意を伴う構造と感情形容詞との関連を追求した。両言語において、他動詞をもちいた脱他動化構造のいくつかにモダリティーとの強い結びつきがみられ、これが感情形容詞の構文と類似の振る舞いを見せていることが確認された。具体的には、「sein+zu不定詞」構文、「sich+不定詞+lassen」構文、日本語の可能構文、意志構文を取り上げた。これらの構文はモノの属性を前景化し、一種のindividual level predicateになっていることが観察された。すなわちこれらの脱他動化構文は統語的に内項が外項の位置に格上げされるものとみなされるが、それにより、意味的にも通常は出来事を表すstage level predicateが属性の表現に転化するのである。上記の日独両言語の脱他動化構文のふるまいはどちらもこのことによって説明でき、またそれは感情形容詞のうちとくにモノを前景化するものの構文および意味と並行していることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は感情形容詞と統語的にも意味的にも関連が高いモダリティーをともなう脱他動化構文を中心的に取り上げた。これによって感情形容詞の構文および意味上の特徴をより広く言語体系の中で位置づける基盤ができたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
29年度は3年計画の最終年度として残された課題との取り組みと研究のまとめを行う。前者としては、感情形容詞と意志のモダリティーとの関連がある。感情形容詞の中には欲求感情を表すものがあり、ドイツ語では経験者を主格とし、対格支配の前置詞aufをその対象とする形容詞が見られ、日本語では経験者に「に」後置詞句を許さない形容詞が見られる。日本語ではこの形容詞の構文が助動詞「たい」による意志表現のそれと並行し、かつ内項の格上げも広くみられる。一方ドイツ語には同一の構造を持つ心理動詞はあるものの、内項の格上げをともなうモダリティー表現が見られない。この点についてのより精緻な観察と分析が必要である。この点について学会発表を予定している。 そのうえで、研究のまとめとして、1)ドイツ語と日本語の感情形容詞の統語的、意味的振舞の対照、2)並行する動詞構文との関連、3)並行する脱他動化構文との関連を整理して、研究のまとめの論文を執筆ししかるべき学術誌に投稿する予定である。
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Causes of Carryover |
人件費・謝金について、研究成果をドイツ語論文として投稿したが、掲載先の規定による強い枚数制限がかかっており、ドイツ語校閲(ネイティブチェック)にかかる謝金が予定より大幅に少なくなった。 旅費について、研究発表のための外国出張の際、日程を合理的に見直したところ、当初の予定より節約することができた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年度は比較的大きな論文を執筆する予定であり、そのためにドイツ語校閲に多くの費用がかかる。また、まだ購入が必要な図書資料が残っており、その購入に充てる。
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Research Products
(3 results)