2015 Fiscal Year Research-status Report
19世紀半ば~20世紀半ばロシア北東地域のユカギール語資料に関する言語学的研究
Project/Area Number |
15K02552
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Research Institution | National Institute for Japanese Language and Linguistics |
Principal Investigator |
長崎 郁 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 言語対照研究系, プロジェクトPDフェロー (70401445)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 言語学 / ユカギール語 / ロシア / シベリア / 古アジア諸語 / 古文献 / 歴史文法 / 分裂能格性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、19世紀半ばから20世紀半ばにかけてロシア北東部、シベリアにおいて収集されたユカギール語資料の古文献や未完資料の調査・収集・整理をとおして、言語データのデータベース化とその言語学的分析をおこなうことを目的とするものである。3年間の研究計画の初年度である平成27年度には、次のような活動をおこなった。 1.W. ヨヘルソンの記録による原文テキスト約100編(収集時期:19世紀末)と、E. クレイノービッチの記録による原文テキスト2編(収集時期:20世紀半ば)、A. シフナーが整理した語彙リストと例文(収集時期:18世紀末から19世紀半ば)を解読・入力し、露訳または独訳とともにコンピュータ上での利用が可能な形にした。とくに W. ヨヘルソンの原文テキストは、ユカギール語の古い資料のなかでも質と量の点でもっとも充実しており、言語研究上極めて重要なものである。また、入力を終えた原文テキストについて、形態素分析と文法的なアノテーションの付与、和訳の作業に着手した。 2.非定形の動詞の用法について、現代のユカギール語と比較しながら分析を進めた。その結果、古い時期のユカギール語(コリマ・ユカギール語)の非定形節では、自動詞主語と他動詞目的語を同じように扱う能格型アラインメントを示す例がが現代語に比してより頻繁に認められることが明らかとなった。このことは、ユカギール語がかつて節のタイプにもとづく分裂能格性を有していた可能性を強く示唆しており、この言語の歴史を考える上で非常に重要な発見といえる。また、古い資料のさらなる分析の基礎となる、現代語の分析もあわせて進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は当初予定していたロシア国内における未完資料の調査をおこなうことができなかった。しかし、古文献資料の電子化を集中的に進め、主だったものについてはその作業を終えた。また、資料の分析と実験的なアノテーション付与をおこない、今後の作業方針をある程度まで定めることができた。したがって、次年度以降の資料のデータベース化への準備がほぼ整ったと言える。さらに、ユカギール語における分裂能格性の存在を資料の分析によって明らかにしたことは、この言語の文法史研究という点からも十分な成果をあげることができたと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、本年度実施することができなかったロシア国内における未完資料の調査を進め、可能な限り入手してデータの拡充をはかる必要がある。 資料の分析および文法的アノテーションの付与に関しては、当初の予測よりもはるかに時間のかかる作業であることが判明したため、資料的価値の高いものを優先的に進める、研究協力者を得て作業の効率化をはかるといった形で対策を講じていきたい。
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Causes of Carryover |
本研究は、ユカギール語の古文献と未完資料の調査・収集・整理をおこなうことを目的のひとつとしているが、平成27年度は古文献の電子化作業に集中したため、当初予定していたロシア国内における未完資料の調査と収集を実施することができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度にロシア国内における未完資料の調査と収集を実施する。
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