2015 Fiscal Year Research-status Report
注釈・論義資料の発掘及び文体記述に基づく仏教漢文書記史の研究
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15K02560
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
磯貝 淳一 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (40390257)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 日本語史 / 変体漢文 / 和化漢文 / 仏教漢文 / 書記史 / 文体史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、平安・鎌倉期に日本で撰述された仏教漢文の文体特徴解明を目的としている。主として教義の注釈書類・法会における論義の記録類を対象とする。これらは仏教教学に関わる学問の所産であって、仏家の文章の特色を考える上でも重要な文体範疇を形成すると認められるものの、日本語学的な観点からの研究が進んでいない。そこで本研究では、用字・用語等の記述と文章構造の把握とを分析軸として、当該期の仏家の学問的活動における漢文書記の実態の解明を進める。 平成27年度は、『法勝寺御八講問答記』天承元年(1131)~保延六年(1140)分について、翻字本文の作成及びデータ入力を進めた。この作業に関わる調査を東京大学史料編纂所において行った(1回)。この作業は未完となったが、本資料の文体特徴の解明を同時並行的に進めた結果、次のような結論を得た。 疑問表現において、使用される助字「耶」の使用の実態から、仏家撰述の和化漢文(及びその背景にある仏教漢文類)の用字との関連が強いことが明らかとなった。一方、判定要求における「歟」字の使用・疑問詞疑問文における助字の使用率からは、古記録類の用字との類似する実態が浮かび上がった。この結果から、『法勝寺御八講問答記』の文体特徴は、公家の日次記たる古記録の用字と共通する面と仏家の記録文としての独自性を有する面との両面性を持つものであることを指摘した。 さらに、和化漢文の諸文体範疇の中に本研究課題の中心となる注釈・論義資料を位置づけるために、比較対象となる周辺諸文献の調査研究を行った。東寺観智院蔵にかかる『注好選』については、使用される全漢字についての索引を整備完成させた。また、和漢混淆文についても『三宝絵』諸本を対象に文脈展開機能の観点から分析を行い、漢文脈的な接続語の使用が諸本に共通に認められ、それが『三宝絵』の説話の構造を作る一特徴となっている実態を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
『法勝寺御八講問答記』及び周辺諸文献に関わる文体特徴の解明については、個別的に成果を上げることができた。ただし、『法勝寺御八講問答記』天承元年(1131)~保延六年(1140)分の翻字本文作成及びデータ入力作業については、文献の言語量が多いこと、また仏教の教義に関わる専門用語の確定に時間を要することが要因となり、未完成となった。
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Strategy for Future Research Activity |
『法勝寺御八講問答記』は、記録の対象期間が144年間にわたる大部の資料である。分量と原本閲覧の困難さから翻字作業が予定通りに進捗しなかった。今後は、本資料の紙焼き写真を入手することで、現地調査以外にも作業を行う環境を確保し効率化を図ることとする。言語の実態記述に基づく文体特徴の解明については、今年度と同様、データ入力と同時並行的に進めることとする。
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Causes of Carryover |
今年度は、京都高山寺において計画していた文献調査が実施できなかった。このことに関わる旅費等について、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度に、本年度未実施となった文献調査を行うこととする。
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Research Products
(4 results)