2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K02563
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
宮地 朝子 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (10335086)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 副助詞 / 機能語化 / ダケ / ナラデハ / 接辞 / 接語 / 多機能化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、「副詞性」の助詞とされる機能語:副助詞が示す「名詞性」に着目し、その内実や、名詞性を離れる過程や条件を考察することで、日本語の名詞性について再検討する。副助詞の機能変化の内実を、語彙的意味や形態統語論的な制約などを基準として具体的に記述把握し、文法変化を支える構造的特質としての副詞性・名詞性を追究するものである。 平成30年度は引き続き、限定を表すダケの機能変化について考察を深めた。20世紀初頭の接語化に関して、XダケノY句を再分析の環境とする見方を再検討するとともに、Xダケハなど主題化された条件での限定解釈の成立について考察した。前者は17世紀に確立した副助詞ダケが一貫して示す分布であり、再分析の土壌として適格である。一方、ダケハ文では述部が否定の場合に限定解釈が顕著であって、意味変化において看過できない。ひきつづき諸条件の相互関係を考察していく。 また、新たにナラデハの研究に着手した(口頭発表2件)。ナラデハは断定辞を含む条件節末要素に始まり、中世後期にはシカ相当の限定を表す接語となった。近代から現代にかけては、連体句「XナラデハノY」述語句「YハXナラデハダ」に用法が集中し、不変化の体言性接辞へとさらなる機能変化を遂げている。その史的展開は、名詞由来でない要素が副助詞し、さらなる機能変化において名詞性を獲得していく事例そのものである。副詞性と名詞性の交渉という観点から追究していく。 その他に、副助詞研究および助詞の文法史の史的展開に関して再検討し、今日的な観点から課題と展望を確認した(雑誌論文および『日本語文法史研究4』収載論文)。理論的観点として、言語機能の個人差と言語の動態(言語変化)の関係性についても、専門家を招聘して集中的なワークショップを行い、個々人の文法における語彙項目の位置づけが個人差・および言語変化の鍵となるという見通しを改めて確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度中の成果発表は、図書収載論文2件、雑誌論文1件、口頭発表3件であった。計画4年目としておおむね順調で着実といえる。うち、2本は、研究史であるが、助詞の文法史研究および副助詞研究の展開に対し、今日的な観点から再評価した点で、まさに本研究の取り組みと不可分の成果である。 ナラデハに関する考察の着手は、本研究課題の見通しを補強するとともに、発展的課題への緒も示している。例えば、口語で否定極性の限定の副助詞となったナラデハに対し、ナラデは近代期まで文語・擬古文体において特徴的な用法を保持した。現代語の用法は、両者の特質を併せ持つように見える。運用条件(文体的条件)の違いによる機能語化の遅速や方向付けの違い、近代期の言文一致や、普通文の確立といった動きの中で、どのような機能変化が生じるのか、といった問題設定が可能である。 発展的課題への萌芽という点では、個人に備わる文法(言語機能)と、言語変化・機能語化の関係性に関して、見取り図を示し、理論化・明示化していく作業も進行中である。量化表現や焦点要素の統語的位置づけには様々な立場があり、その是非に関しても、引き続き、理論的検討を進めている。言語理論の日本語文法研究への応用や、理論的仮説の検証方法については、国内外の研究者とのWSを含む共同研究により、月2-3回のペースで定期的に意見交換を行っている。得られた示唆は、最終年度の成果として、また発展的課題の設定に反映させる見通しを持っている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、ダケ・バカリ、キリ・ホカおよびナラデハ等、個別の形式の共時的・通時的・地理的動態について、記述の精査を実践し、機能変化の制約と動態のパターンを見いだす作業を進める。特にバカリ・ナラデハについて、中世期の資料を精査し、焦点要素としての副助詞が示す名詞性(格助詞の後接、ノ連体用法)の獲得過程と消長について考察する。変化の指標としては、副助詞の運用において、幅広く共起関係を持つ副詞類にも着目していく。 焦点助詞としてのあり方と名詞性を保持する形態統語的条件については、連携研究者を通じて、理論言語学、特に統語論、意味論の先端的知見を積極的に参照援用する。 いずれも、最終年度にかけて、本研究課題の観点からの成果発表に努めるとともに、発展的な課題を見据えて研究に取り組んでいく。 成果は学会・研究会等で口頭発表し、速やかに論文化にとりくむ。日本語の文法変化に関する共同研究に主体的に参画し、一線の研究者との研究交流や意見交換などにより、先端的な知見を集約して議論を深め、計画を推進していく。
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Causes of Carryover |
H30年度に実施した科研費によるワークショップにおいて、旅費が予算見込みを下回ったため、若干の次年度繰越が生じた。海外より招聘した研究者2名の旅程の都合により、本研究費からは国内旅費のみの支弁となったことによる。次年度に計画中の海外研究者の招聘に際して、外国旅費の一部として充当する計画である。
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