2015 Fiscal Year Research-status Report
キリシタン手稿類を中心とする日本語ローマ字表記の通時的研究
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15K02564
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
川口 敦子 三重大学, 人文学部, 准教授 (40380810)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 国語学 / キリシタン資料 / ローマ字 / 表記 / 写本 |
Outline of Annual Research Achievements |
海外での資料調査に先立ち、上智大学キリシタン文庫(東京)にて、イエズス会ローマ文書館所蔵資料に関する予備調査を行った。 イエズス会ローマ文書館(イタリア)にて、アビラ・ヒロン『日本王国記』や16世紀末~17世紀前半の日本キリシタンに関係するローマ字書き日本語の文書を調査し、複写資料を収集した。これによって、平成23-26年度科研費「キリシタン手稿類におけるローマ字表記の日本語学的研究」(若手B、課題番号23720228)で収集した複写資料と合わせて、『日本王国記』の現存する写本が揃った。 平成26年度に調査したスペインのフランシスコ会イベロ・オリエンタル文書館所蔵ディエゴ・デ・チンチョン報告書(AFIO 23-1)には、日本文字とそれに対応するローマ字書き日本語やスペイン語訳が書かれている箇所が存在するが、これと同内容のものが『日本王国記』に記されているので、両者の綴り字を比較し、その相違点について考察した。従来、『日本王国記』の日本語表記には、宣教師ではない商人アビラ・ヒロンの独自性が表れているとされていたが、チンチョン報告書の表記との共通点を見ると、『日本王国記』の記事の出典となった文書の表記との関係は無視できないと考えられる。宣教師であるか商人であるかにかかわらず、スペイン系キリシタン手稿類に共通する表記規範が存在した可能性が指摘できる。この研究成果について、研究会で口頭発表として報告した。また、口頭発表を発展させた研究成果について、近日中に学術論文として公表する予定である。 また、ヴァチカン図書館(ヴァチカン市国)にて、「バレト写本」(1591年写)のローマ字書き日本語の詳細を検討した。なお、「バレト写本」の筆者マノエル・バレトに関して、イエズス会ローマ文書館と上智大学キリシタン文庫にて資料収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主目的である、ローマ字書き日本語の手稿類について、本研究の前提となる平成23-26年度科研費「キリシタン手稿類におけるローマ字表記の日本語学的研究」(若手B、課題番号23720228)をさらに発展させて、16世紀末-17世紀初頭のキリシタン手稿類である「バレト写本」と『日本王国記』を中心に研究を進めることができた。 今年度の資料収集によって、『日本王国記』について、現存が確認されている写本の収集が完了した。『日本王国記』のローマ字書き日本語の表記の検討については、『日本王国記』の写本間だけにとどまらず、作成者の異なる文書である、フランシスコ会イベロ・オリエンタル文書館所蔵ディエゴ・デ・チンチョン報告書との共通性から、スペイン系キリシタン手稿類に共通する表記規範が存在する可能性を指摘することができた。この研究に関して学会・研究会での口頭発表を行った。また、その成果は近日中に学術論文として公表予定である。 キリシタン手稿類におけるローマ字書き日本語としては非常に大部な「バレト写本」の表記について、現地での原本調査によって、影印本では判読が難しい部分まで調査することができた。ただし時間の制約から、調査を完了することができなかった。 なお、本研究に関連する研究として、口頭発表「天草版『平家物語』の注記記号が持つ意味」(日本語学会2015年度秋季大会 、2015年10月31日)を行った。この研究によって中世ラテン語註釈文献との関連性や、「読書行為」としての訓点資料との共通性など、キリシタン資料研究の新たな可能性を発見できた。この発見は、本研究を進める上でも重要なものであると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに収集した『日本王国記』諸本の本文に見られる、ローマ字書き日本語の研究を行う。 まず、フランシスコ会イベロ・オリエンタル文書館所蔵ディエゴ・デ・チンチョン報告書と対応する箇所の日本語について、その表記の特徴を精査し、考察する。 『日本王国記』諸本に見られる日本語語彙とその表記について全体的に研究する。また、諸本の本文対照を行い、本文が対応する箇所の日本語の諸本間での相違点から、その表記規範について研究する。 「バレト写本」の表記について、平成27年度の現地調査では最後まで終えることができなかったため、現地調査を継続し、これを完了する。日本で刊行されている影印資料やヴァチカン図書館のマイクロフィルム資料では判読が難しく、ともすれば誤読の危険がある箇所も少なからず存在するため、現地での原本調査は欠かせない。 現地調査として、平成24-26年度にスペインで行った調査の続きを行う。特に、閲覧可能な曜日が限られているために調査が不十分となってしまったフランシスコ会イベロ・オリエンタル文書館での調査を重点的に行う予定である。
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Causes of Carryover |
収集した資料の整理と管理のために、新OS(Windows10)搭載のデスクトップ型パソコンを購入する予定であったが、Windows10について学内での導入を保留する旨の通達があったため、学内での対応体制が整うまで、購入を見送った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
学内でWindows10への対応が決まり次第、Windows10搭載のデスクトップ型パソコンを購入する予定である。
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Research Products
(3 results)