2015 Fiscal Year Research-status Report
創造的逸脱表現を支える文法のしくみ:言語使用のインターフェイスと言語変化
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15K02590
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
鈴木 亨 山形大学, 人文学部, 教授 (70216414)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 創造的逸脱 / 文法 / 意味解釈 / 語彙 |
Outline of Annual Research Achievements |
Apple社の宣伝文句‘Think different’の文法的な資格とその解釈可能性について、統語論・意味論・語用論の見地から総合的に検討し、当該表現が関連表現の語彙的・文法的ネットワークに支えられ、創造的な逸脱表現として成立している可能性を明らかにした。 当該表現は、現代英語の標準的・規範的な文法体系からすると逸脱的であり、単純な副詞分析や動詞補部の形容詞分析では、潜在的に意図される多層的な解釈を十分に捉えることはできない。しかし、関連表現としての疑似他動詞用法('Think beauty')、口語命令文や広告表現での簡潔性への志向(‘Think big’)、さらに同族目的語表現などの成立条件を精査すると、活動の結果産物を介した活動様態と活動主体の一体的評価により、動詞補部の形容詞が、主語の属性を評価する構文的意味拡張の一例として分析できる可能性について検討した。 とりわけ語彙的には、動詞thinkと形容詞differentの組み合わせにおいて、このような創造的逸脱が容認される背景として、(1)同族目的語構文や様態表現における緊密なコロケーション、(2)活動対象に焦点化する疑似他動詞用法、(3)活動の結果産物を介した活動様態と活動主体の一体的評価、(4)口語的命令文や広告表現における簡潔性の志向と逸脱性の許容などの諸条件が背景的なネットワークとしていわば複合的にこの創造的逸脱を支えているということが示唆される。以上の点は、論文鈴木(2015)、および編著書菊地ほか(2016)内の自著論文で論じた。 構造面では、文法操作として付加部位置からの形容詞が「引用実詞(quotation substantive)」として動詞補部に編入されるしくみを考えているが、この点は今後の検討課題である。この点は、日本英語学会でのシンポジウム発表鈴木(2015)による。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、以前からの継続的な研究でもあるため、個別表現としての'Think different'についての構造分析と解釈可能性の検討は、かなり詳しいところまで進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
動詞thinkについては、関連する用例もかなり収集を進めることができたが、関連構文として他の動詞(act、talkなど)が関わる事例については、構文分析とともに用例の収集も不十分なので、対象とする範囲を広げつつ当面集中的に取り組む課題としたい。また、理論面では、文法的逸脱が容認され文法体系に組み込まれていくプロセスについて、言語変化との関わりがまだ十分に検討されていないので、関連する文献を調査しつつ、理論化を着実に進めていきたい。
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Research Products
(3 results)