2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K02591
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡邉 明 東京大学, 人文社会系研究科, 准教授 (70265487)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 程度表現 / 量的関係節 / 指示詞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、当初、比較級と共起する程度表現から手をつける予定であったが、それらを含めた程度表現全般についての検討を大学院のセミナーで行ううち、日本語の「だけ」に着目し、それが指示詞に付随して程度表現を形成する場合や、節を伴って英語の量的関係節と呼ばれるものに対応する構文をなしている場合について分析を進めた。前者は比較級とも共起するという事実から手をつけるに至ったのだが、「これだけの本」のように名詞を修飾する場合の意味解釈と構造についての対応関係が複雑な様相を呈することが判明し、「だけ」と名詞との関係に集中して解明を試みた。その結果、指示詞プラス「だけ」が名詞を修飾する構造は、難易度など性質についてさしている場合と量をさしている場合のどちらでも使えるのだが、量的意味を持つ場合のみ格助詞に後続する形(たとえば「本をこれだけ読んだ」)を取ることができるという新発見につながり、量的意味を持つ場合は、前述の量的関係節の構文と共通の構造で、いわゆる量化子のうち「たくさん」のようなものと同列に扱うことができるという成果を得た。さらに、Carlson 1977が提案した英語の量的関係節の古典的分析における中心的アイデアのいくつかを現在のより精緻な句構造のシステムに取り込むことで日本語の量的関係節の構文が分析できることも判明した。こうした一連の分析結果は、英語の量的関係節も結局は関係詞節として扱うことができないかもしれないという可能性を浮上させ、その意味合いは大きい。 これらの成果は、Formal Approaches to Japanese Linguistics 8という国際学会の招待講演として発表し、その議事録に論文の形で収録される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の成果は、最終年度に予定していた「くらい」や「ほど」についての研究につながるものであり、研究計画立案のときとは順序がことなる形で研究が進んでいるが、程度表現について考える際にまず念頭に浮かぶ形容詞の修飾という常識的な線ではない、名詞修飾の分野でとっかかりが得られたことは、初年度としては上出来である。今後の研究について当初予想もしていなかった興味深い着眼点を手に入れたことを意味するわけで、当初予定の比較級や最上級についての研究を進めていく上でも参考になると予想される。
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Strategy for Future Research Activity |
英語の程度表現には、日本語の「だけ」などに相当するものが存在しないので、その違いが何を意味するかは、今後も継続して検討していく課題である。比較級や最上級そのものについては当初の予定よりはひとまわり遅れる形になるが、順番としては当初の計画通り、2年目はまず計量単位語も考慮に入れながら序数詞と最上級の関係をさぐっていく。比較級と共起する程度表現についてもさらに検討を続ける。
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Research Products
(1 results)