2016 Fiscal Year Research-status Report
英語の動詞の用法獲得と認知発達に関する認知言語学的研究
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15K02597
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
谷口 一美 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (80293992)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
深田 智 京都工芸繊維大学, 基盤科学系, 教授 (70340891)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 言語獲得 / 移動表現 / 状態変化表現 / CHILDES / 運動発達 / 認知言語学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、谷口・深田の各々の調査分担の総括に向け、最終的なデータの収集と分析を行った。 状態変化動詞の獲得を分担する谷口は、昨年度から継続し “get+形容詞”による状態変化表現を含む発話をCHILDESから収集し、大人の発話とこども(年齢別)の発話を形容詞別に分類する作業を完了した。その結果、記述文法では "get+形容詞" に生じる形容詞に対する意味的制約は存在しないものの、大人とこどもの対話で発せられる“get+形容詞”は望ましくない状態への変化を表す事例が高頻度であることが明らかとなった(get wet,get sick など)。この点は、否定的な結果状態を表す傾向にあるとされるget受け身と共通する。望ましくない状態への変化はこども自身の注意を引きつけ、養育者の側もこどもが害を被らないよう注意を差し向ける対象となりやすいことが“get+形容詞”の使用を動機づける要因であるとの見通しを立て、次年度の考察課題とする。 移動表現の獲得を分担する深田は、場面・状況内の意味と連語関係の2点に注目した調査を行った。養育者とこどものインタラクションで現れる移動表現を調査・観察したところ、第三者の移動を語れるようになる前段階で、こども自身(一人称)の移動意志を伝えることばや対話者(二人称)に移動を促すことば、とりわけ“let's+移動表現(go, run, walk, rush等)”の使用が見られることが明らかになった。こどもの発話する“let's+移動表現”のタイプやその出現頻度は、こどもの運動獲得の過程と密接に関わっている可能性があり、次年度の検証課題とする。また、goやrunはこどもの年齢や場面に即して幅広い意味を伝えている可能性があるため、これを詳細に分析することで、従来の移動事象研究では追究されてこなかった〈移動様態〉の下位分類が可能となると想定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はデータベースCHILDESを使用した量的研究に依拠するものであり、ターゲットとする表現形式の出現頻度に研究の進捗が大きく左右される。谷口が2017年度に調査した“get + 形容詞”は、大人の発話が約2000件、こどもの発話が約800件と膨大であり、手作業によるデータ分類に想定以上の時間を要したが、基礎的なデータ収集が完了し観察・分析が可能な状況であるため、おおむね順調に進展していると判断できる。深田による調査は、移動にかかわる身体運動の発展という新たな観点による研究に取り組み、現在は仮説の構築に至った段階であるが、次年度は仮説検証のために収集したデータを活用し研究を進展させる見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は研究期間の最終年度となるため、谷口・深田ともに2016-2017年度に収集したデータを再度精査し、双方の研究成果を統合して認知言語学的観点から考察を行う。当該表現が出現した具体的な状況や、こどもの運動発達・認知発達の段階といった背景的要因にとくに着目しながら、移動表現の獲得と状態変化表現の獲得の間にどのような共通性や相関が見られるか、日本認知言語学会におけるワークショップなどの機会で発表し議論する。特に谷口・深田共に、養育者である大人とこどもとのインタラクションで局所的に出現する表現パターンに注目するに至っており、今後は文法の形成・獲得においてコミュニケーションや相互行為、身体経験基盤が担う役割の重要性を実証していきたい。
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Causes of Carryover |
2016年度は、国際構文文法学会(隔年開催)の参加と成果発表を当初計画していたが、学会が後期授業開始直後にブラジルで開催となったため参加を見合わせた。そのため、予定していた旅費の支出が大幅に減額となった。また、データの収集のうちアルバイトに依頼する作業内容の多くが2015年度に完了していたため、謝金の支出も予定より少額となった。以上の理由により、次年度使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は学会でのワークショップ開催による講師謝金の支払いや、国際学会への参加にかかる旅費などにより、2015-2016年度で生じた未使用分を有効に活用し、成果発信につとめる。
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Research Products
(5 results)