2017 Fiscal Year Research-status Report
日英語の意味・語用論的志向性に関する記述的・理論的研究
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15K02603
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
今野 弘章 奈良女子大学, 人文科学系, 准教授 (80433639)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | デフォルト志向性の解除 / ニ/ヲ交替 / 注意 / 知覚 / 視覚 / メトニミー / 時制体系 / 時制辞の欠落 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は当初から予定していた①Talmy (2000)による日英語のデフォルト志向性に関する研究、②本研究課題を進める中で新たに生じたテーマ、日英語の時制辞が欠落した構文の時制解釈と両言語の時制体系の相関についての研究を進めた。 ①Talmyを端緒とする日本語の動詞枠付け志向性/英語の衛星枠付け志向性に関する先行研究を調査し、当該のデフォルト志向性が解除される現象を研究した。扱った現象は「掲示{に/を}注意する」における格標識の交替(ニ/ヲ交替)である。有標の「掲示を注意する」は無標の「掲示を注意して見る」に書き換えられ、統語的な主動詞「注意する」が認可しているように映るヲ格は、意味的な主動詞「見る」によって認可されている(cf. Levin and Rapoport 1988)。「掲示を注意する」と「掲示を注意して見る」の意味的関連は、注意と視覚に代表される知覚のメトニミー的関連に動機付けられている。「掲示を注意する」は、格助詞ヲが文全体の性質を決定しているという点で、日本語における衛星枠付け表現すなわちデフォルト志向性の解除と位置づけられる。「掲示を注意して見る」との意味的関連から、「掲示を注意する」は視覚的放射表現(松本 2004)の一種とみなすことができる。視覚的放射表現一般においてはTalmyの類型的特徴付けが成立しないことが松本(編)(2017)によって指摘されている。本研究の分析はその指摘を支持する。 ②時制辞を持たない日英語の主節現象を対象に、個別言語の時制体系と時制標示の欠落の相関についての研究を進め、直示的時制辞を持つ英語と持たない日本語において、時制辞の欠落という同一の形態統語的特徴が及ぼす意味的効果が異なることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①今年度予定していた現象の分析を進め、次年度に開催される国内学会の口頭発表に応募する準備を整えた。 ②本研究課題の研究成果2件が論文集に収録され出版された。 ③本研究課題の研究成果の一部を次年度にイギリスで開催される国際学会で口頭発表することが決定した。 ④本研究課題から派生したテーマについての研究を進めた。 以上の点から、本研究課題はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果を総括し、その意味合いを俯瞰的に考察する。併せて、関連する現象の調査・研究を継続する。
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Causes of Carryover |
年度途中で、本研究課題の成果の一部を次年度にイギリスで開催される国際学会のワークショップで口頭発表することが決定した(https://www.ucl.ac.uk/english-usage/isle5/workshops/ws8.htm)。 次年度に予定されている助成金のみでは、その際の旅費が不足する、あるいはその他の研究活動のための予算が不足する可能性があるため、今年度助成金の一部を繰り越した。 繰り越した全額は次年度助成金の一部と合わせて上記発表の旅費として使用予定である。次年度助成金の残額は、その他の研究活動に使用予定である。
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Research Products
(5 results)