2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K02618
|
Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
田中 秀毅 摂南大学, 外国語学部, 准教授 (50341186)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 部分構造 / 部分・全体の関係 / 数量詞 / タイプ・トークンの関係 / 指示レベル |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は日本語の「AノB」形式について考察した。数量詞Q(‘大部分’など)はA位置にもB位置にも生じることができる(‘大部分の絵画’や‘絵画の大部分’のように)。西田(2004)は名詞が‘絵画’のように複数の個体を指すとき(「量の解釈」とよぶ)は上の例のように2つの形式は同義になるが、‘絵’のように単一の個体を指すとき(「個の解釈」とよぶ)はQがB位置に生じる形式しか容認されない(‘*大部分の絵’vs.‘絵の大部分’)と主張している。 本研究は、英語の「部分構造」との対応関係を踏まえて、B位置にQが生じた形式が部分構造に相当すると考える。というのも、複数の個体の集合の一部分を表す(M部分関係、M<member)でも、単一の個体の一部分を表す(I部分関係、I<Inalienable part)でも「NノQ」形式で表せるからである。対して、「QノN」形式では、部分構造と異なり‘構文的に’ではなく、‘語彙的に’部分関係が表されるが、Qの語彙特性で量化のレベルが固定される。例えば、‘大部分の絵画’ではグループの一部分(M部分関係)となる。これは、英語でmostによって量化される名詞が可算名詞では複数形になるのと同様である(most pictures vs. *most picture)。このことと関連して‘多く’と‘多い’を比較した。前者は‘多くの事故’のようにいえるが、後者は‘*多い事故’のようにいえない。ところが、‘この辺りで多い事故は車と自転車の接触事故です’(寺村(1991)の例)が容認されることから、‘事故’はタイプ解釈を受け、‘多い’はそのトークンを量化していると分析できる。要するに、‘多い’は‘多く(の)’よりも量化する対象の指示レベルが一段下がるということである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の2つ目課題として、概数詞を伴う助数詞(‘数本’や‘数種類’)の分析を予定していたが、特に‘種類’のような助数詞の特徴について十分に考察できなかった。西田(2004)は‘数本の樹木’や‘数種類の樹木’がそれぞれ‘樹木の数本’や‘樹木の数種類’のようにQの位置を交替できることから、当該名詞が量として捉えられていると主張する。しかし、田中(2016)が指摘しているように、‘数本’はグループ・メンバーの関係(M部分関係)を表すが、‘数種類’はタイプ・トークンの関係(T部分関係)を表すと考えられる。例えば、M部分関係を表す「AノウチノB」形式に代入してみると、‘(この森の)樹木のうちの数本’と‘*(この森の)樹木のうちの数種類’となり文法対立が見られることから、後者がM部分関係でないことは明らかである。一方で、T部分関係を表す「数量詞遊離文」では、‘??この森では樹木が数種類枯れてきている’は‘この森では樹木が数本枯れてきている’に比べてすわりがわるく感じられる。よって、‘種類’のようなT部分関係の考察をさらに掘り下げる必要がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
英語の、種類を表す部分構造(kind/typeを含むもの)と対照しながら日本語の助数詞の‘種類’について考察することが考えられる。例えば、What kind of a doctor is she?とWhat kind of doctor is she?で解釈に違いがあることが指摘されている(『ジーニアス英和辞典』など)。この最小対立ではof名詞の限定詞の有無にその原因を帰することができるため、それを踏まえてT部分関係の特徴を掘り下げ、さらに分析の射程を日本語の対応表現に広げていけるのではないかと思われる。
|
Causes of Carryover |
異動のため所属研究機関が変わることになり、国内外の学会参加費として計上していた旅費(55万円)を使用する機会が十分に確保できなかったことが主な要因である。次年度の5月に海外の学会(大韓民国)で本研究の成果の一部を発表することが現時点で決まっているが、さらになる成果発表や本研究のテーマに関連する研究発表を聴講するための国内外の学会や研究会等への参加の機会を探りたい。 また、本年度に購入を予定していた機器類(50万円未満のもの)については、研究の進捗への影響が少ないことから購入を見送ったので、次年度に購入する予定である。
|
Research Products
(1 results)