2017 Fiscal Year Annual Research Report
Research on the complex character of medieval historical documents and shared knowledge and transmission
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15K02826
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
本郷 恵子 東京大学, 史料編纂所, 教授 (00195637)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 説話 / 故実書 / 国学 / 薩戒記 / 原文書 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、古文書・古記録・編著物の三種の文献史料について、それらが相互に関連しあい、乗り入れあいながら伝来している状況に注目して考察するとともに、それらを書写・保管・利用してきた人々の意識や価値観を明らかにしようとしたものである。文献史料の複合的性格の具体相を提示し、前近代を通じての情報の管理・継承の方法を検討し、歴史学的視点からのリテラシー論の見通しをつけることを目指した。さらに人々の文書に対する感受性・親和性の高さについて考え、中世社会における文書や文献の位置づけ・役割を示すという課題も意識してきた。 最終年度となる2017年度には、以下の内容の報告書をまとめた。まず、「『薩戒記』所載の文書について」として、『薩戒記』応永二十五年(一四一八)~永享九年(一四三七)記までのなかに収録された多様な文書を通覧し、伝来文書から帰納された古文書学とのズレや、それらにあらわれた当該期の興味深い事例を指摘した。また、中山忠親が編集し、中山定親による書写を経て伝来した『直物抄 第一』の翻刻を行った。さら「『原文書』の伝来について」で、千葉氏の庶流原氏に関係する『原文書』の伝来や、散逸分の所在について検討した。原氏は、下総結城において結城秀康に召し出され、秀康の移封にともなって、越前福井藩に仕えるところとなった。「福井藩」という要素が、同文書群の伝来に大きく関わっていたことをあきらかにした。 ほかに今後も調査を継続する課題は、①京都梅津の『長福寺文書』について、同寺所蔵の『長福寺寺記』所載文書と、現在の散逸状況との照合や伝来の検討、②尾張の国学者である取田(橘)正紹の事績や彼の書写史料の検討の2点である。中世~近代にいたる、国学者や好事家、実業家等、さまざまな立場の人々の交流や史料蒐集は、前近代から近代にいたる知の体系の編成や価値観の変容と大きく関わっていると考えられる。
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