2021 Fiscal Year Research-status Report
技術史的観点からみた古代宮殿・官衙・寺院造営と天皇家産機構の関係についての研究
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15K02830
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
古尾谷 知浩 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (70280609)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 日本古代史 / 手工業生産 / 建築生産 / 天皇家産機構 |
Outline of Annual Research Achievements |
以下の論文を公表することができた。 古尾谷知浩「「親王禅師」と東大寺・造東大寺司」(『続日本紀研究』424号、2021年6月) 本稿で論じたことは以下の通りである。通説においては、奈良時代末に東大寺にいた「親王禅師」は早良親王と同一人物で、造東大寺司と密接に関係しながら東大寺の修造を担っていたとされていた。これに対し、本稿では「親王禅師」と早良親王が同一人物であるという説は決定的な証拠を欠くこと、「親王禅師」は、東大寺や造東大寺司の外部にあって、天皇に直結し、天皇の意志を伝える位置にあったこと、造東大寺司の技術力低下を背景に、造東大寺司を介することなく、僧侶主導で修造を行う体制を構築しようとしていたこと、東大寺の外側から東大寺三綱の人事に介入することがあったこと、などを明らかにした。そして、天皇に直属して東大寺に勅を伝えるという点をとってみると、後の東大寺別当の位置づけに近く、「親王禅師」は東大寺別当の前史として位置づけられることを主張した。 古尾谷知浩「日本古代の官司の印」(『日本歴史』884号、2022年1月) 本稿で論じたことは以下の通りである。律令制における官司印の制度、実体からみた印の機能、および平安時代の展開について整理した上で、手工業史的観点から銅印の製作の問題について検討し、以下のことを指摘した。八世紀初頭の中央の鍛冶司および九世紀の地方の工房では、ロウを用いずに、おそらく旧来の技術である掻き彫り法により印面部の鋳型を作っていたのに対し、鍛冶司廃止後の内匠寮では新来のロウ型技法により銅印を製作していた。平安時代初期には、公印が設置される対象の官司が拡大して新たに鋳造する機会が増え、また、古い印が摩滅したことにより改鋳がなされることもあったが、そうした背景の中で内匠寮がロウ型技法による印の鋳造を担うようになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度までの研究で手薄であった、平安時代における建築生産や手工業生産に関する論文を公表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度までの研究では、平安時代の天皇家産機構に関する検討が手薄であった。令和4年度はこの問題について補足的に研究を進める予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスが流行し、必要な調査出張ができなかったため。2022年度は前年度に行えなかった調査出張を行い、補足的な情報を収集する計画である。
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