2015 Fiscal Year Research-status Report
古代日本と渤海中期王権の交流と流域遺産に関する歴史環境学的研究
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15K02840
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Research Institution | Josai International University |
Principal Investigator |
藤井 一二 城西国際大学, 国際人文学部, 客員教授 (00139742)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 渤海王城 / 渤海使 / 上京龍泉府 / 中京顕徳府 / 黒龍江流域 / 図們江流域 / 北陸道 / 畝田・寺中遺跡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、8・9世紀における遣唐使・唐使の往来に対して、「北の回廊」で結ばれた日本・渤海国の交流特性と往来路の地域拠点に分布する「流域遺産」の歴史的環境と背景の解明を目的とする。その内訳は、698年~926年の約230年間、東北アジアに「海東盛国」(新唐書)を築いた渤海国の王城が、建国地の東牟山(旧国)から中京城(顕徳府)に遷る8世紀中葉以降、上京城(龍泉府)・東京城(龍原府)を経て再び上京城に戻る9世紀中頃に至るまで、日本と渤海の政権・王城段階ごとの交流特性と往来路(渤海路・日本道)に位置する両国の流域文化遺産に焦点をあて、関係資料の編年的集成と歴史的環境について考察を行うことにある。 平成27年度は、基礎的作業として中国東北の図們江流域における渤海中期王城と八世紀段階の日本との交流に関する資料収集と整理作業を実施した。8月に大連市で研究協力者の王禹浪氏(大連大学教授)らと協議し、資料調査と今後の計画について調整を図った。資料調査では、旅順博物館(旅順口区)で劉述氏(同館研究員)の案内・解説で唐代中国東北史資料を観覧でき、関係文物の撮影(許可)を行った。また研究協力者を通じて、黒龍江・図們江流域に集中する渤海文化遺産に詳しい現地研究者の紹介を依頼した。 今後に向けて、2016年5月頃に研究協議会(東京)、夏季に中国東北で開催の国際学術論壇における招待講演の機会に現地調査(歴史遺産・博物館)を行う予定を立て日程・巡回コースを検討することとした。滞在中、中国東北史に関する図書・雑誌を収集し、そのうち『延辺大学学報』186期(2014年第4期)所収「2012-2013年渤海史研究評述」において、「‥日本学者藤井一二教授的≪日本天平時代的渤海交流≫是、近年来日本研究天平時代与渤海国交流的專著‥」と評する記事に接した。今後、各地の調査・研究活動において課題説明の資料として有効であると期待している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、渤海王権と古代日本の交流関係について、8世紀中葉~9世紀中葉に在位した聖武・孝謙・淳仁・称徳・光仁・桓武を中心とする時代と、渤海中期の大欽茂・大元義・大華与・大嵩燐・大元瑜らの王権最盛期を対応させ、この段階の日本と中国の流域文化遺産に着目し、王城・王族墓・山城・津・駅に関する資料を収集・整理を踏まえその交流諸相を再構成することを目指している。 そのため国内においては、日本・渤海両国の遣使が発着・滞留した日本海側の「津」と周辺の歴史的環境に関して、8世紀の墨書土器(「天平」紀年銘)の出土した金沢市畝田周縁遺跡群の考古学的成果を再検討し、津周辺で確認された多数の大型掘立柱建物群と20数個に及ぶ井戸遺構の一体性を論点とする論文執筆に着手した。 一方、国外では、黒龍江支流である図們江の流域に位置する渤海中期王城との交流に関する年表整理を進めているが、当初予定の中国吉林省における史跡巡見は、目下整備中の中京顕徳府址(和龍市西古城)・東京龍原府址(琿春市八連城)と新資料館の公開が遅れていることから好機を待つこととなり、そのため渡航・移動・滞在・会議・調査協力等に係る予算は次年度に繰り越すこととした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度に実施した活動成果(資料整理・執筆)と次年度へ延期した現地巡見の課題を再確認し、初年度成果を『ニューズレター』で公表することと初年度来の論文執筆を進める。平成28年5月に研究協力者の王教授と協議し(東京会場)、8月以後において黒龍江流域と現地の博物館(黒龍江省等)において、流域遺産の参観・撮影・資料収集を行う。また、12月には中国から研究者を招聘し、「中国・黒龍江流域の文明遺産―古代日本との連動―」(仮)をテーマとするセミナーを東京・金沢で開催する。 またこの時期に合わせて、代表者(藤井)は「渤海中期王権と古代日本の交流―渤海王城遺産を中心にして―」(仮)と題する論文をまとめるとともに、並行して国内では28・29年度にかけて、渤海使・遣渤海使の往来した「日本道」「渤海路」の交流回廊に関する沿海部の諸津・官衙遺跡の現地調査を実施する。 以上の調査・活動の成果と課題を取りまとめ、その概要を発信するために、ニューズレター・ホームページと報告セミナー(東京・大連)を準備する。更に図書については、研究協力者の論文・遺産データを含む論集として『古代日本と黒龍江流域の文明遺産―交流の古代史―』(仮題)を刊行し、東北アジアにおける渤海遺産の調査・研究成果の概要をホームページにおいて開示する予定である。
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Causes of Carryover |
平成27年度の研究計画において、中国黒龍江・図們江流域における渤海王城の現地巡見と図書館・博物館での資料収集を実施する予定であったが、黒龍江省博物館新館(ハルビン市)と中京顕徳府遺址(吉林省和龍市)・東京龍原府遺址(同省琿春市)等の整備・公開が時期的に遅れている現状に鑑み、これら主要遺跡と関係資料館の公開を待つこととした。そのため、流域遺産・文物など最新成果の紹介を含む報告セミナー「渤海中期王権と古代日本の交流に関する諸課題」(東京・大連会場)は、次年度へ繰り越すこととした。これに連動し、旅費・交通費や現地案内・資料収集に係る人件費・謝金等の支出を抑制し次年度に繰り越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究では、対岸アジアの黒龍江・図們江流域の渤海中期王城との交流に関する資料収集と整理を行うため、日本国内の遺跡・文献に加え、国外は中国吉林省延辺・黒龍江省寧安地区の渤海王城遺跡に関する資料調査と現地巡見を通じて、周辺環境の画像収集を意図している。平成28年度の研究費用は、以下の目的で使用する計画である。1、研究協力者(大連・牡丹江・黒河・延吉市)等の流域遺産に関する中文レポート・論文原稿の翻訳を専門家に依頼する。2、黒龍江省博物館・新館と吉林省に分布の渤海王城址(中京・東京城)の公開に合わせて現地巡見を実施する。3、日本・中国の大学において、中国東北の渤海文化遺産を紹介するため「渤海中期王権と古代日本の交流」に関する国際研究集会(シンポジウム)を開催する。その準備・成果をニューズレターとホームページで発信する。4、日本・中国における近年の関係図書・資料を購入する。
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Research Products
(2 results)