2015 Fiscal Year Research-status Report
古代日本における地域社会への文字文化の伝播と識字に関する研究
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15K02852
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Research Institution | Miyazaki Sangyo-keiei University |
Principal Investigator |
柴田 博子 宮崎産業経営大学, 法学部, 教授 (20216013)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 出土文字資料 / 墨書土器 / 硯 / 転用硯 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は中国の江南地域の文字資料について調査する機会を得た。江蘇省南京市内では、3世紀~6世紀の六朝期の港津遺跡から、墨書陶磁器が多数出土しており、これは日本の飛鳥・奈良・平安前期における古代官衙や集落で多量に出土している墨書土器の淵源のひとつと想定できそうなものである。いっぽう福岡県の博多などで多量に出土している墨書陶磁器と同様の、北宋から元代にいたる時期の墨書陶磁器は、中国では複数の遺跡において少数の出土がみられ、1遺跡で多量に出土するという形態をとらない点が古代と異なる。陶磁器への墨書については、福建省に多いという情報も得た。 また宮崎県下耳切第3遺跡では、明らかに外部からの搬入品である円面硯が出土しており、その流入経路を探ることが九州南部への文字文化の伝播を解明する一手段であると考えている。日向へは弥生時代後期以後に瀬戸内海を通じた物資や文化の交流が多くみられるため、本年度は、讃岐(香川県)の古代硯を含む出土文字資料を調査し、比較検討を行った。香川県では古代墨書土器の出土点数はこれまでのところ90点程度にとどまっており、刻書土器を含めても100点程度にすぎず、全国的にみても極めて少ない地域であることが確認できた。しかしいっぽうで硯や転用硯などの文字関係遺物の出土数は多く、また硯の素材となる須恵器の生産もきわめて盛んであった。香川県出土の円面硯には瀬戸内海周辺の特徴がみられ、宮崎県下耳切第3遺跡出土例もこれと共通するが、しかし胎土・焼成方法には差異が認められた。これまでの調査成果をふまえると、下耳切第3遺跡出土の円面硯は、伊予地域、とりわけ現在の松山市周辺が故地である可能性が高まった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
古代の西海道諸国は大宰府により統括・支配されていたので、先進文化の伝播も大宰府からもたらされるのが一般的と考えられてきた。しかし宮崎県下耳切第3遺跡出土の円面硯は、飛鳥・奈良時代に大規模な須恵器生産を行っていた福岡県牛頸窯の出土例とあわず、どこからもたらされたものかが不明であったが、その見通しが立ってきた。大宰府は強い支配権を持ち、また文化の先進地域でもあったが、すべてが大宰府経由ではなく、瀬戸内海を通じた交易や文化交流が窺えるようになってきている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに引き続き、各地域の硯・転用硯・墨書土器等の出土文字資料と識字の様相を検討するため、できるだけ多くの遺物・遺跡を実見・調査し、資料収集と分析を進める。中国では福建省と、おそらくその貿易船の寄航地と考えられる山東省で、まとまった量の墨書陶磁器が出土しているとの教示を得ているので、平成28年度に実地調査に行く予定である。 また研究成果について、昨年度は報告する機会を得なかったので、平成28年度以後は口頭報告をふくめ、行っていく。
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Causes of Carryover |
九州内における資料収集を実施するのが当初の計画であったが、中国における墨書陶磁器を調査する機会を得たため、平成27年度はそちらへ注力したことにより、物品費等の支出が少なくなったことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
九州内の資料収集については平成28・29年度に進めるが、熊本県内とりわけ熊本市については地震のために当初計画の調査が困難と予想しており、大分県内についても困難な地域がありえる。そこで情報収集を行いつつ、適切に調査を実施していく。また昨年度より、中国における墨書土器を調査するチャンスがあり、平成28年度にも調査を行う計画である。
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