2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K02855
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Research Institution | Kyushu Historical Museum |
Principal Investigator |
酒井 芳司 九州歴史資料館, その他部局等, 研究員 (00543688)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 木簡 / 大宰府 / 西海道 / 日本古代の広域地方行政 / 赤外線カメラ / 税の貢納 / 樹種分析 / X線CTスキャナ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、大宰府出土の古代木簡と九州の他地域や首都が置かれた近畿地方から出土した古代木簡との比較研究を通して、奈良~平安時代の大宰府による西海道(九州地方)当地の実態を解明し、なぜ九州のみが本州の他地域と異なって、大宰府という特別な広域行政機関による支配を受けたのかを明らかにし、その成果により日本古代国家の本質を見通すことを目指すものである。 平成27年度は、古代の広域行政機関についての先行研究を収集し、研究史の整理を行ういっぽう、大宰府出土木簡を再調査した。すなわち新たに赤外線テレビカメラを導入し、釈文の再検討を行い、また関連する他地域出土の木簡について、所蔵機関に出向き、携行した赤外線テレビカメラを使用して、調査を実施した。具体的には、関門海峡をはさんで、西海道に隣接する長門国と周防国の主要な木簡を調査し、大宰府出土木簡と比較検討を行った。大宰府史跡の中でも最初に木簡が出土した蔵司地区は、西海道の税物の徴収を所管した蔵司の跡と推定されているが、鋳造遺物や熱を受けた武具が出土し、西側に近世のため池をはさんで隣接する来木地区の金属工房遺跡とも関連すると考えられている。 これと関連し、長門国地域では、長門鋳銭所跡、長登銅山跡出土木簡、周防国地域では、周防国府跡出土木簡を調査した。実際に出土した現地に赴いてみると、この地域でも金属工房遺跡はやはり水が豊富な谷地形の場所に営まれており、大宰府の蔵司・来木地区と立地が共通することが確認できた。赤外線テレビカメラを使用して観察すると、木簡にしみ込んだ銅イオンは、文字の釈読には影響しないこと、木簡の劣化を防止する効果があることも確認できた。また周防国府跡出土木簡については、数点の文字を新たに判読しえた。このように、新たに導入した機器を使用し、大宰府出土木簡について再検討するための基礎的なデータを収集することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大宰府出土木簡の釈文の再検討については、これまで順調に進めており、調査が可能な保存状態の木簡のほとんどについて、再釈読はほぼ完了している。次年度以降の調査に備え、九州各地および都城出土木簡の情報収集についても着手している。 X線CTスキャナを使用した材質、加工技術の調査については、まず方法論を確立するため、保存科学を専門とする研究協力者の職員に依頼し、方法を検討しているところである。それをふまえた上で、最初に九州歴史資料館が所蔵する大宰府出土木簡について、実験的に調査を行う予定であったが、平成27年度には実施できなかった。これについては、平成28年度に実施し、方法論が確立させ次第、他機関の木簡についても調査を実施して行きたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、九州各地および都城出土木簡について、赤外線カメラ等を携行して木簡が出土した現地に赴き、各所蔵機関において調査を実施する予定である。ただし、本年4月14日・15日に発生した熊本・大分地震のため、とくに九州の中部の文化財関係機関は、被災文化財の救出等の対応に追われており、九州各地出土の木簡については、調査が十分に進められない可能性がある。そのため、まずは都城や本州の他地域出土の大宰府と関連がある木簡の調査を中心に進め、大宰府出土木簡と比較検討するデータを収集していきたい。
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Causes of Carryover |
本研究の目的に必要な赤外線テレビカメラの購入にあたり、交付された予算で購入可能な仕様の機器を選定した結果、応募段階で想定していた旅費や消耗品費が必要額より少なくなり、初年度の出張先を見直ししたため、若干の残余が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は、近畿地方や調査可能な九州各地の木簡所蔵機関における調査のための旅費、九州歴史資料館に設置されているX線CTスキャナで調査するための、主に九州の他機関からの各機関所蔵木簡の輸送費などに使用する。
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Research Products
(5 results)