2017 Fiscal Year Research-status Report
近世東北地方における自然資源の利用・管理と地域社会に関わる歴史学的研究
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15K02860
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
高橋 美貴 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (90282970)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 陽一 東北大学, 東北アジア研究センター, 助教 (40568466)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 古文書 / 史料保全 / 江戸時代 / 自然資源の利用と管理 / 日記 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、年度半ば以降、研究代表者である高橋が家族の事情により研究を進めることができなくなったため、年度後半は共同研究者である高橋陽一および研究協力者である佐藤大介による作業が中心となった。実績は以下のとおりである。 1.5月27日、高橋美貴が石巻市河北総合センターにて、「古文書から見る江戸時代の追波の森林と村びとたち」と題して、被災史料を用いた地元講演会を実施した。2013年東日本大震災で甚大な被害を被った旧北上町(現石巻市北上)には、かつて大部の歴史資料が旧家によって所蔵されていた。これらの歴史資料の多くは、震災によって喪失したが、本科研メンバーは震災前から当該地域で資料の調査・撮影を実施するとともに、震災後も史料レスキューに関わってきた。本講演会は、これらの資料に基づくものである。 2.9月3日、高橋陽一が、本科研で調査対象としてきた文書所蔵者である金家を訪問し、調査状況について報告のうえ、赤子養育に関する史料紹介を実施した。 3.また、高橋陽一は、10月~12月にかけて、仙台市博物館にて仙台市愛子地区の旧大倉村・旧芋沢村関係史料の調査・撮影を行った。この調査は、同藩の山林関係制度の解明を意図したものである。 4.佐藤大介は、一関市藤沢町の丸吉皆川家文書に残されていた、900頁におよぶ幕末維新期の日誌のうち、慶応4年(明治元年)4月から12月に懸けての約70頁の記載について、仙台市内の市民と共同で月1回の解読検討会を行った。約50000文字の解読成果を得、戊辰戦争期の地域の動向、生糸その他の経済変動、低温や台風など環境変動に関する情報が得られた。これらの資料については、今後、本科研関係者が共同で分析を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度半ばに、研究代表者である高橋の家族にとある事情が生じ、夏期を含む年度後半に共同研究を進められない状況に陥ってしまったためである。ただ、そのなかでも、次のような作業を進めることができた。 本研究は、仙台藩領を主なフィールドとして、1.沿岸地域と2.内陸地域の二つの地域を拠点とすることで、藩の林政や流域史なども意識しながら、森林資源の利用と管理に関する資料の発掘・整理と分析を進めることを目的としている。1.については、仙台藩領の①「牡鹿郡女川町木村家文書」、②「同町丹野家文書」、③「同町須田家文書」のほか④「桃生郡名振浜永沼家文書」を素材に、史料の収集・分析を進めることとしていたが、これについては、一昨年度、『仙台藩の御林の社会史 三陸沿岸の森林と生活』(蕃山房)を刊行し、昨年度はその成果をもとに女川町において講演会を開催、さらに本年度は石巻市において「古文書から見る江戸時代の追波の森林と村びとたち」と題する、被災史料を用いた地元講演会を実施した。また、昨年度来、東北地方との比較を意図し、大部の活字資料が蓄積されている伊豆半島沼津市の内浦沿岸地域を事例とした分析を進めてきたが、本年度もその分析をもとに新たな論考の執筆を進めた。2.について、本研究では、「一関市大東町金家文書」の整理・撮影を進めてきたが、多人数での調査が所蔵者宅にご負担を与えるなどの問題も生じたため、昨年度来、所蔵者の了解を得たうえで、史料の一部を借用のうえ、東北大学災害科学国際研究所にて撮影を進めた。本科研期間中に所蔵者に史料の概要や内容の一部なりとも還元することを意図し、史料の概要などをまとめた報告書作成を継続した。また、次年度に向けた研究の地ならしとして、岩手県磐井郡東山地域に残されている、他の史料郡の概要確認も行った。
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Strategy for Future Research Activity |
仙台藩領を主なフィールドに、1.沿岸地域と2.内陸地域の二つの地域を拠点とすることで、藩の林政史や流域史なども意識しながら、森林資源の利用と管理に関する資料の発掘・整理と分析を進めるという本研究の課題のうち、1.については、ブックレットの刊行(2016年)でひとたび成果を得たことから、分析対象としている東北沿岸地域との比較研究を意図して、伊豆半島を事例とした研究論文の作成を引き続き進めたい。これについては、すでに2016年に「近世における水産資源変動と山林・獣害―豆州内浦を事例として―」(渡辺尚志編『生産・流通・消費の近世史』勉誠出版)を成果の一部として発表しているが、次年度は査読付き学術雑誌への投稿・掲載を目指す。 一方、2.については、本年度と同様、「一関市大東町金家文書」の撮影作業を継続する。本来であれば、本年度で撮影を完了する予定であったが、研究代表者の家族の健康問題から作業をひとたび中断し研究期間の延長をせざるをえなかったため、改めて次年度中の史料撮影完了を目指したい。それと合せて、史料の概要把握を進めるとともに、途中報告となることも覚悟しつつ報告書作成のための準備を継続し研究期間内で完成させることを目指したい。また、合わせて、調査を進めている一関市に残された史料の所在・概要調査も並行して進める予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、本年度、研究代表者である高橋の家族にとある事情が生じ、夏期を含む年度後半の研究遂行が滞ることとなったためである。次年度の本研究の進行については、以下のとおりを計画している。 仙台藩領を主なフィールドに、1.沿岸地域と2.内陸地域の二つの地域を拠点とすることで、藩の林政や流域史なども意識しながら、森林資源の利用と管理に関する資料の発掘・整理と分析を進めるという本研究の課題のうち、1.については、分析対象としている東北沿岸地域との比較研究を意図して、伊豆半島を事例とした史料の収集と研究論文の作成を引き続き進めたい。これについては、すでに2016年に「近世における水産資源変動と山林・獣害―豆州内浦を事例として―」(渡辺尚志編『生産・流通・消費の近世史』勉誠出版)を成果の一部として発表しているが、次年度は、さらなる史料収集とそれらを基にした査読付き学術雑誌への投稿・掲載を目指す。 一方、2.については、本年度と同様、「一関市大東町金家文書」の撮影作業を継続、年度内の完了を目指す。それと合せて、史料の概要把握を進めるとともに、途中報告となることも覚悟しつつではあるが、報告書作成のための準備を継続し研究期間内で完成させることを目指したい。また、合わせて、調査を進めている一関市に残された史料の所在・概要調査も並行して進める予定である。
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