2018 Fiscal Year Annual Research Report
A Study of the Reception of Abraham Linclon in Modern Japan
Project/Area Number |
15K02880
|
Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
陶 徳民 関西大学, 文学部, 教授 (40288791)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | リンカーン / ジョセフ彦 / 松村介石 / 新渡戸稲造 / 内ケ崎作三郎 / リンカーン伝記 |
Outline of Annual Research Achievements |
町田市にある明星大学東京リンカーン・センターおよび米国イリノイ州にあるアブラハム・リンカーン大統領図書館・博物館という二大宝庫に対する徹底した調査により、近代日本のリンカーン受容の軌跡と様相を物語る新聞雑誌・公文書・伝記・教科書などの全容を把握できた。近代日本の精神史と政治思想史に対するリンカーンの影響は主として、その健全な個人主義の精神(向上心、職分意識とリーダーシップ)と開かれた政治の理念(正義論、民主主義と人種差別撤廃主張)の魅力によるものだったと言える。リンカーン受容の先駆者のジョセフ彦(濱田彦蔵)・松村介石・新渡戸稲造、リンカーン伝記作家の櫻井鴎村・内ヶ崎作三郎・秋山弥一、および東京リンカーン・センターの創始者望月政治などの人物の多くは、キリスト教の信者もしくはアメリカと関係する文学者や実業家であった。そして、国定教科書元年の1903年12月に出版された文部省著作『高等小学修身書』は、全28課のうちに明治天皇 に3課、徳川吉宗将軍に2課を当てるのに対し、リンカーンに5課を割り当てていたことは、近代の倫理道徳教育における開明的な側面を反映している。それは、複数のリンカーン伝記とともに、青少年の立身出世と修養を励ます重要な役割を果たした。一方、民本主義を標榜し議会政治を推進する「大正デモクラシー」のリーダーたちに対するリンカーンの開かれた政治の理念の影響も明らかである。また、1919年パリ講和会議で国際連盟規約に「人種差別撤廃条項」を加えるべしとする日本の提案や、1924年米国の「排日移民法」に対する反論にもリンカーンの影響が働いていた。 研究成果として『西教東漸と中日事情―拝礼・尊厳・信念をめぐる文化交渉の諸相』と「リンカーン伝記作家としての内ヶ崎作三郎-忘れられた文化史家の国際感覚と政治姿勢」などを出版し、招待講演「リンカーンとS.W.ウィリアムズ」を行った。
|
Research Products
(14 results)