2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K02882
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Research Institution | International Research Center for Japanese Studies |
Principal Investigator |
Breen John 国際日本文化研究センター, 海外研究交流室, 教授 (90531062)
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Project Period (FY) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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Keywords | 伊勢 / 遊郭 / 御師 / 講 / 奇跡 / 聖地 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の成果は複数の発表や一本の論文にみえる。いずれも「山田外宮→古市遊郭→宇治内宮」という伊勢独自の空間配置を出発点としたものである。遊郭を中核とした伊勢を認識しないことには伊勢参りが理解できないとの議論を展開した。女性の角度から伊勢参りを論じ、妓楼で働き、春を売る女、茶屋の経営に携わる女、参宮客として妓楼に上がった女の描写を試みた。さらに、古市その他の名所の近世的変容を抑え庶民の参拝経験を再現した。伊勢参りが天皇の歴史的参拝や御師の廃止により近代的なものとなる過程も示した。 英文論文“Pilgrims’pleasures”では、神職の回想録、江戸期の文学を使い、遊郭と伊勢参りの有機的関係性を示した上、参宮案内書類、道中日記を利用し参拝者の伊勢経験を再現し、その経験が時代ごとに変わったことにも注目した。さらに地方に目を向け、伊勢信仰の地方的定着、維持、発展のエージェントとして御師の活躍に着目した。そして最後に近世的想像力が作り出した伊勢像を明らかにしようと試み、奇跡の場としての伊勢(江戸期のおかげ参りに見えた)、そしてそれと矛盾する、公共性にみちた、政治的な場としての伊勢(安政年間・文久年間から現れた)をハイライトした。 本研究は以下の3点において有意義で重要だと確信している。 1. 伊勢という特殊的近世的空間を重視し、参拝者がその空間をどう経験したかを示した。性と聖地との密接な関係を仄めかすことができた。2. 伊勢などの聖地の歴史的変遷を理解するのに必要なのは、その聖地を牛耳るエージェントである。御師こそそのエージェントだと議論した。地方だけでなく伊勢における御師も射程に入れた。3. 近世の伊勢が私利私欲の奇跡の場だが、同時に公共性、政治性を併せ持つ場でもあり、伊勢のハイブリッド性をも指摘できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
多少遅れている理由は、 1. 研究課題が採択された通知を入手したのは、後期が始まる10月ごろだったこと、 2. 11月から1月にかけて眼精疲労にかかり、それが調査、執筆などの仕事の大きな妨げとなったこと、(産業医に先ず診てもらい、バプテスト眼科山崎クリニックおよび京都予防医学センター神経内科で3月まで治療を受けていた) 3. 研究が遅れている学術的理由もあり、すなわちジェンダー的な観点から伊勢参りを検討する予定で調査に乗り出したが、史料的限界があることがわかったため「研究実績の概要」で述べた空間的な観点から問題に接近しなおす必要があったこと、 などが挙げられる。
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Strategy for Future Research Activity |
27年度は時間的制限、病気のことがあったりして御師の一次史料を見ることができなかったが、28年度は岩井田家(内宮)や世田谷区にある龍家(外宮)の史料乃至上野毛田中家文書にある伊勢講関係の史料を解析したい。これまでの研究で十分に明らかにされてこなかった御師と伊勢講とのダイナミックな関係を示すのを目的とする。 28年度は予定通り大正・昭和(前期)に焦点を絞り、神宮大麻及びその頒布の観点から伊勢神宮を捉えなおす。昭和元年に大麻の頒布が神宮奉斎会から全国神職会に委託されたのを契機に、地方の神職が伊勢神宮にあらためて注目することを議論する。調査の主な課題は、地方の神職会報を収集することにあるが、すでに京都府、三重県、東京都の会報を(網羅的にではないが多少)収集しているため、研究が順調に行くことを期待する。さらに、神社や神職の数がもっとも多い新潟県のものを探す。『皇国』、『皇国時報』など神職の刊行物、それとはべつに奉斎会から刊行された『教林』、『祖国』などを集める必要がある。研究成果を「近代天皇制と社会」研究班(京大人文研)で12月に報告する予定である。
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Causes of Carryover |
2015年10月になって初めて採択の通知を受けたが、当時別の研究課題を追求していたことや11月から体調を崩していたことがあって、フルに調査、執筆などに乗り出すことはできなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
去年で完成できなかった調査(御師の一次史料、伊勢講関係の史料閲覧、史料解析)の実施には、旅費、複写などの経費が必要である。この研究の完成と同時進行で来年度に企画している研究課題も行わなければならない。その課題は、大正・昭和(前期)にみる伊勢神宮を地方の神職の観点から捉え直すものであり、旅費、複写などの経費を必要とする。
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