2017 Fiscal Year Research-status Report
近代中国における「民意」・「敵意」の形成と民俗・象徴を巡る社会統合
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15K02897
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
丸田 孝志 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (70299288)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
水羽 信男 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (50229712)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 中国共産党 / 敵意 / 民意 / 象徴 / 民俗 / 信仰 |
Outline of Annual Research Achievements |
戦後国共内戦期における中国共産党(中共)冀魯豫区根拠地の政治動員について、社会の流動性に依拠して形成されてきた伝統中国の秩序再編の手法との関係において考察した。冀魯豫区農村は小農経営を中心としており、土地が不足し、人々は各種副業や賃労働によって生活を維持していた。そのため、土地改革のみでは多くの民衆を動員することはできず、中共は食糧や就業の機会を求める無産大衆を積極分子・党員・兵士として組織して、大衆運動と軍事闘争を展開した。 中共は大衆運動の中で、階級区分を基礎とし個々の政治的態度や地位・資格を含む「政治等級区分」を付与・剥奪することで、人々の忠誠を引き出すことに成功した。政治的態度に基づく可変的な等級区分は、徳の高さを地位の根拠とする伝統社会の理念に一致し、民衆の中から大量の積極分子と党員が抜擢する大衆動員の過程においては、伝統社会の秩序構築の手法である会門の盟誓が使用された。 中華人民共和国建国初期の民間信仰に関わる民衆の集団行動、および革命の指導者・紅軍に関わる事物が奇跡をもたらす「革命の伝説」について検討した。急速な社会経済の改造を伴う政治運動の下で進行した政権による迷信の禁圧は、民衆の強い反発を引き起こしたが、一方で民間には、個々の利害に基づく迷信行為を政府の権威によって正当化する行動も多くみられた。祈雨や神水・神薬を求める民衆の集団行動は、全てが反政府的なものではなく、一定の「権利意識」に目覚めた民衆は、政府が不信心を改めて、天や神を敬い、その恩徳を天下に及ぼすという「本来の務め」を要求していた。 「革命の伝説」は、天や神仏を畏敬する民衆とこれを禁圧する権力という現実の構図を、奇跡をもたらす革命の正義を支持し、反動的な国民党権力に対抗する民衆という物語の構図に組み替えるもので、民間信仰と表裏一体を成す権力によるイデオロギー独占構造を再構築する試みであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国共内戦期の中共根拠地における政治動員の手法が、階級闘争論に基づきながらも、伝統中国の政治・社会構造から導き出される秩序編成の特徴を継承して運用されていた状況を、冀魯豫区根拠地の戦時動員を具体例として、確認することができた。また、中華人民共和国建国以降の民間信仰に関わる集団行動の意識構造と、これを体制内に取り込もうとする権力の手法を検討することで、「天意」に関わる民間信仰と伝統的政治思想が、人民を主権者とする共和国において再編されていく過程を、民衆の集団行動と「革命の伝説」の形成の問題を具体例として、確認した。以上の作業を通じて、国共内戦期から建国初期の中共の政治動員と政治イデオロギーと大衆の信仰・権力観との関係、前者が後者を権力内に取り込んでいく過程と構造についての基本的な見通しを立てることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、「革命の伝説」を含む毛沢東の物語と伝記の生成・発展過程を、日中戦争時期から中華人民共和国建国初期にかけて精査することにより、中共権力が社会に浸透させようとしたイデオロギーの構造と伝統的権力観・及び民間信仰との関係について検討を進める。これらは、文字を理解し、組織的な教育を受ける環境にある党員幹部・青少年・兵士などの階層に対する宣伝・教育を意図したものであり、史料としては、新聞・雑誌の他、基礎教育に関する教材や関係文書等を発掘・収集する。香港中文大学所蔵の『内部参考』、邯鄲学院所蔵の太行山文書、華東師範大学現代史研究中心所蔵の史料、古書市場なども利用して、基層レベルの関係史料の発掘に努める。 この他、文字を解さない大衆に対する、毛沢東・中共権力のイメージの宣伝・教育の問題については、毛沢東像の普及、記念日、儀礼、娯楽の組織などをテーマとして、内戦末期から中華人民共和国建国初期にかけて検討する予定である。より具体的なテーマや対象地域は、毛沢東の物語・伝記に関する作業との兼ね合いで絞り込んでいくが、基礎作業として『内部参考』、『人民日報』等の検討を通じて、全国的な状況を把握する作業を開始しておく。この際、敵としての蒋介石・国民党政府、地主、漢奸、アメリカ帝国主義などの表象が、どのように対置されて、中共の権威を形作るかについても、当時の世論の動向についても意識しながら、分析を進める。 これらの作業を通じて、民意を英邁な指導者の指し示す革命の方針へと回収していく中共のイデオロギーの構造を、伝統的政治イデオロギーとの関係を視野に入れて考察する。
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Causes of Carryover |
古書の購入など経費節約に努めたため、小額の余剰が生じた。物品費に入れ込んで適切に使用する。
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Research Products
(6 results)