2016 Fiscal Year Research-status Report
宋代士大夫家族の構造分析と階層移動に関する計量的研究
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15K02900
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
遠藤 隆俊 高知大学, 教育研究部人文社会科学系教育学部門, 教授 (00261561)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 家族 / 家庭 / 宗族 / 士大夫 / 宋代 / 范氏 / 蘇州 / 社会的流動性 |
Outline of Annual Research Achievements |
蘇州范氏を中心とした宋代士大夫家族の官職と社会的流動性について、『范氏家乗』および『范文正公集』などを資料として、計量的に分析した。その結果、家庭や家族のような比較的小さいレベルで見ると、宋代士大夫の社会的流動性すなわち階層異動は非常に大きいが、これを宗族という比較的大きな枠組みでとらえるならば、士大夫の階層移動は大きくは起こらなかったことが判明した。その意味で、士大夫の社会的流動性については、家庭や家族の視点から見るか、それとも宗族という大きな視点から見るかによって結論が異なると考えられる。従来、論争の大きかった士大夫の社会的流動性については、このような観点から再検討することができる。 さらに、宗族のレベルで考えても、族員全員が官僚であるというわけではなく、范氏の場合で言えば、北宋当初は8割近い宗族の人間が官職を持っていたのに対し、南宋後半期になるとほんの数%しか官僚でないという状態であった。言い換えれば、北宋時代にはほとんどの者が官僚であったのに対して、南宋末期にはほとんどの者が官僚でなくなっており、少数の者が代表して官僚になっているという事実が判明した。このことから、宗族という大きな枠組みで見た場合においても、士大夫の社会的流動性は確実に起こっており、彼らは常に没落の危険性にさらされていたと言うことができる。 以上のことから、宋以後の宗族は士大夫にとって科挙官僚輩出の基体であったというこれまでの見解は、理念としては一定程度成立するものの、彼らの現実を考えてみれば、必ずしも有効な見解ではないと言える。むしろ宗族はかつて唱えられたように、士大夫であれ地主であれ、族員の私的保障ないし広義の自衛のために設けられたものであり、宋以後の科挙社会においては、ステイタスシンボルの役割を果たしていたと言うことができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
宋代士大夫の階層移動すなわち社会的流動性について、当初は蘇州范氏を中心としたケーススタディと実態解明を主な目的としていたが、本年度の研究ではそれを通して、理論的な解明にまで至ったことから、当初の計画以上に進展したと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、前年度の研究成果を受けて、元代の范氏について実態解明を進めるとともに、異民族王朝が支配した中国において、旧来の士大夫家族がいかなる行動を示したのかという華夷問題や、士大夫の居住をめぐる都市社会と農村社会の問題について検討を加えたいと考えている。
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Causes of Carryover |
東京都世田谷区にある静嘉堂文庫で、所蔵している漢籍資料『范文正公忠宣公全集』の文献複写を依頼し、そのための文献複写費用を5万円程度計上していた。しかし、複写依頼の時期が年度末の2017年3月になってしまい、年度内に複写の現品が納品されなかったため、未使用額となって残ってしまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前項の文献複写依頼は既に行っているので、複写文献の納品があり次第、すぐに文献複写代金として使用する計画である。
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Research Products
(6 results)