2015 Fiscal Year Research-status Report
20世紀前半の中東欧多文化社会における社会的格差と地方財政
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15K02927
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
渡邊 竜太 東北大学, 国際文化研究科, GSICSフェロー (40596524)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 西洋史 / 現代史 / 東欧史 / オーストリア史 / チェコ史 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は,(1)20世紀初頭のオーストリア帝国における諸地域・諸民族の住民間に存在した生活水準の格差を統計史料に基づき明らかにすること,(2)当時のオーストリア社会がこの格差を調整する仕組みを持っていたか否かを,地域間財政調整制度に着目して検討することを課題とした。 1 20世紀初頭のオーストリア社会における社会的格差の実態解明に当たっては,1907年度版『オーストリア統計ハンドブック』所収の教育,保健・衛生,税収に関する統計などを用い, 諸地域・諸民族間の生活環境を検討した。その結果,今日のオーストリアに当たるドイツ人地域及びボヘミア諸邦(チェコ)とルテニア(ウクライナ)人,南スラヴ人等が住む東部・南東部との間でに大きな格差が存在したこと,とりわけ東部では富の偏在が顕著であり,先行研究で明らかにされた,ガリツィアにおけるポーランド人貴族とルテニア人貧農の対立等に鑑みれば,社会的格差が民族問題と重なり合っていたと考えられることを指摘した。なお,ここで1907年度の統計を用いたのは,それが,同年にオーストリアに男子普通平等選挙権が導入される以前の最終的な状態を示すと共に,選挙改革とその結果生じた社会主義政党の躍進がオーストリア社会にもたらした影響を明らかにする上での出発点をなすと考えられるからである。 2 オーストリアの地域間財政調整制度については,同時代の法令と先行研究に基づき,最初に導入された1896年から第一次世界大戦までの国から領邦への分与制度の変遷と地域間格差解消に対する効果を検討した。その結果,当時のオーストリアにおける財政調整制度は,財務行政の集権化に伴い領邦の課税権を中央政府が取り上げたことに対する補償として導入されたものであり,分配の基準は格差の解消に寄与しなかったことが明らかとなった。以上の研究の成果は,学会において報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成27年度に予定していた,20世紀初頭のオーストリア帝国における諸地域・諸民族間の社会的格差の実態を解明すること,及び財政調整制度の歴史的展開を明らかにし,格差解消に対するその意義を検討することは,上述のように達成し,成果を発表することができた。 これに引き続き,海外で史料の調査・収集を行い,20世紀初頭オーストリアにおける「民族問題」と社会的格差をめぐる論争の解明に取り掛かることを予定していた。しかし,昨年,研究代表者の家族に予期せぬ不幸が生じ,それに伴う葬儀や諸手続き等のため,海外渡航とそのための事前調査に必要な準備をするのに必要な時間を確保することができなかった。このため,現地調査を次年度以降に延期し,現在はそのための準備・調査を行うと共に,既に収集した史・資料や国内で利用可能な史・資料を用いて研究を継続している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,申請時の計画調書に記したとおり,(1)20世紀初頭オーストリアにおける「民族問題」と社会的格差をめぐる論争を非ドイツ人地域,とりわけボヘミア諸邦(チェコ)における議論に着目し,その背景にあった歴史的現実に照らして検討すること。かくして,同地における民族/国民間の対立と紛争の意義を,従来着目されてきたナショナリズムや国民社会の形成とは異なる視覚から明らかにすること,(2)第一次世界大戦後,旧オーストリアの多文化社会を引き継いだ継承諸国の一典型として,両大戦間期のチェコスロヴァキアに注目し,同国における諸地域・諸文化集団間の格差を明らかにすると共に,住民の生活の場である市町村の行財政の実態,同国における地域間財政調整制度の意義を明らかにすること。それに基づき,第一共和国の崩壊をもたらした「ズデーテンドイツ人問題」等の「民族問題」に,チェコスロヴァキアの地域間格差,とりわけ同国の財政調整制度が孕んでいた諸問題の視点からの解釈を試みることを目標とする。そのために,これまでに入手した,また,国内で利用できるオーストリア及びチェコスロヴァキアの政治,経済,財政等に関する史・資料を分析・検討すると共に,プラハ等現地において,今後利用する史・資料を調査・収集する。収集すべき史料としては,20世紀前半の政治的な雑誌類,統計,地方行財政の実態(予算,決算,選挙,公有林管理など)に関する史料,各政党・団体等が発行した地方自治行政に関する出版物等を予定している。その後,収集した史・資料に基づき,計画調書に記した計画に従い,研究を続ける。 当面は,入手済みの史・資料を用いて研究を進めると共に,インターネットの図書館蔵書検索システム等を用いて,海外での資料収集の事前調査・準備を行う。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画では,初年度である昨年度に史・資料の調査・収集のために海外に渡航する予定であった。しかし,昨年,研究代表者の家族に予期せぬ不幸が生じ,それに伴う葬儀や諸手続等のため,渡航及び予備調査等に必要な時間を確保することができなかった。このため,在外調査のために予定していた旅費,及びそれに関連する物品費(史料撮影のためのデジタルカメラ購入費など)に充てるべき額を平成27年度には使用せず,次年度に繰り越す。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上述の理由で昨年度は行うことができなかった海外における史・資料の調査・収集を次年度以降に行うための旅費,それに要する物品の購入等を予定している。また,学会出席のための旅費,書籍等の資料購入等のための物品費の支出は,必要に応じて随時行う。
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