2016 Fiscal Year Research-status Report
20世紀前半の中東欧多文化社会における社会的格差と地方財政
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15K02927
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
渡邊 竜太 東北大学, 国際文化研究科, GSICSフェロー (40596524)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ヨーロッパ現代史 / 東欧現代史 / チェコスロヴァキア現代史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、近現代の中東欧地域のうち、民族・国民(性)、地域、経済構造、政治文化などの多様性・格差がとりわけ顕著であった、両大戦間期のチェコスロヴァキアに焦点を当て、研究を行った。 同国における社会的格差に関する基本文献である、Margaret Bolton Smales, Class, estate and status in Czechoslovakia, 1918-1938, Diss. PhD, Open Univ. 1983ほか、 国内で入手できる、両大戦間期チェコスロヴァキアの社会、経済、政治に関する文献の収集・整理を行った。 これと並んで、チェコを訪問し、プラハのチェコ共和国国民図書館にて、当該期の自治体政策、社会政策に関する資料を収集すると共に、ドイツとの国境に位置する、西部のヘプ市の文書館にて、当該期の市政、とりわけ財政の具体像を知るための史料を、閲覧・収集した。後者は、 国境に位置する、ドイツ人都市において、いわゆる「民族問題」がいかなる形態をとって現象し、財政・社会政策がそれにいかに作用したのかを明らかにすることを意図するものである。これによって、チェコスロヴァキア地方財政史の一事例を解明するのみならず、国境に位置し、ドイツとボヘミアの間で、中世以来特殊な地位に置かれてきた同市の特性、同市が所有した広大な市有林の意義、社会政策とナチズムの影響力浸透の関係などをも明らかにする手がかりを得ることを意図している。 また、前年度に行った、20世紀初頭のオーストリアにおける多文化社会、「民族問題」と社会的格差に関する口頭による研究発表の文章による報告も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初は、研究計画の初年度に現地での史料収集を行う予定であったが、当初予期していなかった、肉親の病気・死去が生じ、このこととそれに伴う諸手続きのため、海外への渡航を延期せざるを得なかった。このため、必要な史料の閲覧・収集・分析が遅れた。その間は、国内で入手できる史・資料の分析・整理や、現地で収集すべき史・資料の事前調査・検索を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、現地で収集した史・資料の分析・整理に速やかに移る。前年度に収集した史料には、両大戦間期のチェコスロヴァキアにおける市町村財政構造の具体像、それをめぐる同時代の統計・分析や論争などが多数含まれていることが明らかになった。それらを題材に、まず、当該期のチェコスロヴァキアにおける、市町村をはじめとする地方自治行政団体の財政運営の具体像を明らかにする。次いで、同時代に地方財政をめぐって行われた議論を、とりわけ地域間の歴史的・社会的・経済的な差異に注目して検討する。 研究代表者がこれまで着目してきた、地方税負担の地域間の相違などが、同時代の政策論争の中で、分析・議論されていたことが明らかになったので、まずは、それらを題材に、両大戦間期チェコスロヴァキアにおける地域間の多様性や格差との関係で、同国の地方財政問題、とりわけ、当時の地方自治行政団体が、国税に対する付加税を主要な財源としたことに起因する問題を検討する。 また、具体例としてのヘプ市に関する史料からは、市有林をはじめとする市有財産を多く所有し、それらからの収入が市の歳入の多くを占めた同市においても、高率の市付加税が課されていたことが明らかになった。従って、市町村付加税の負担の重さが、市町村歳入において、公有企業・財産からの収入が占める割合に反比例し、付加税の占める割合に比例するという、研究代表者の従来の予測は覆され、再検討が必要となった。このため、両大戦間期チェコスロヴァキアにおける地方財政問題を、その代表機関における論争などに即して、具体的に解明し、主要な財源が収益税付加税や公有財産など、地域の経済状態に左右され安いものであったこと、地域間の格差を是正しうる財政調整制度が存在しなかったことによって生じた問題を明らかにすることを目指す。
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Causes of Carryover |
書籍、電子機器購入などの物件費、学会出席等に伴う旅費の支出が、当初の予測を下回ったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
書籍などの物件購入費、学会出席・資料収集等に伴う旅費として使用する予定である。
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