2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K02928
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小川 知幸 東北大学, 学術資源研究公開センター, 助教 (70312519)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | ヨーロッパ中世史 / コミュニケーション / 情報・メディア / 地図史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は16世紀に編まれた画期的地図帳であるオルテリウス『世界の舞台』とその関連資料を収集・分析することにより、地域間を体系的に関連づけるための思考プロセスを明らかにすることで、地域間統合システム、すなわち、ヨーロッパ近世における「達成されようとした世界」(ドメイン)を解明することを目的としている。 本年度は、地図が歴史的構築物であることを前提に、そのイメージ分析の動向を探った昨年度の口頭発表「歴史と記憶:図像資料の可能性と課題」の成果を踏まえ、オルテリウスの当時の収集資料の再構築ならびに、その資料を作成した地図製作者の諸活動を明らかにすることに力を傾注した。オーストリア・ウィーン大学図書館、ドイツ・ミュンヘン大学図書館等を訪れ、関連資料を収集するとともに、その分析をおこなった。 その結果、オルテリウスが参照した地図資料は、冊子体およびブロードシート等を併せて、3千数百点に及ぶことが推定された。それらはオルテリウス所蔵にかかるもの、また、国王地理学者(Regiae Maiestatis Hispaniae Geographus)としての地位を利用して、非公開資料を閲覧・複写したものもあった。とくに、オルテリウスの盟友であったメルカトルの帰属するいわゆるフランドル派では、クリスティアン・スクローテン(Christian Sgrooten)の作成した地方図が高い頻度で参照されており、スクローテンは同じく国王地理学者として独自の測量によりこれを製作したことが明らかになった。その成果の一部は、「国王の地理学者クリスティアン・スクローテン(1525?-1603)」(記念論集準備会、於東北大学、2017年2月26日)および「国王の地図製作者として生きる:クリスティアン・スクローテン」(構造史研究会、於岩手県立大学アイーナキャンパス、2017年3月29日)として口頭発表をおこなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
他の職務(研究・教育・論文執筆等)との関係で、本研究での予定したエフォート率が若干低下したようであるが、資料分析等は予定通りおこなっている。刊行の都合により論文発表に至らなかったが、口頭発表の機会を多く持てたことで、分析視角等の改善が図られた。
|
Strategy for Future Research Activity |
初年度がオルテリウス『世界の舞台』の出版・流通の過程の再構成、そして次年度にあたる本年度が地図製作者との交流を通じた、地図製作の前過程を重点的にたどるという計画を予めたてており、その点で本研究は予定通りに進行している。最終年度には、前述の「地域間を体系的に関連づけるための思考プロセス」を明らかにすることが課題となるが、本年度にオルテリウスが参照した地図製作者の側で表現された「体系性」をある程度究明できたことは、翻ってオルテリウス自身の思考プロセスを考察する上で、おおいに役立つようにおもわれる。 そこで、今後はそのような「個別の体系」をオルテリウスがどのように総合しようとしたのか、という点を中心に据え、追加資料の収集を含めた分析と考察をおこない、口頭および論文の発表につなげていきたい。
|
Causes of Carryover |
前年度に購入予定の資料の刊行が間に合わず未使用額が生じたが、本年度はこれを差し引き、826円の未使用が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
資料の購入と必要な消耗品等の購入により適切に使用する。
|
Remarks |
スタッフ紹介は不定期更新 ニュースレターは広報および教育用として
|
Research Products
(5 results)