2016 Fiscal Year Research-status Report
19世紀アメリカ合衆国における反知性主義と「人種」
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15K02929
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小原 豊志 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (10243619)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 反知性主義 / 人種差別思想 / 白人性 / 人民主権 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、19世紀の随所に見られた反奴隷・反黒人の思想・活動・立法を検討対象にして、そこに潜む人種差別主義思想を白人性概念と反知性主義というアメリカ合衆国独特の知的状況を接合した分析視角から再検討することにより、従来、白人優越主義という非歴史的概念で説明されてきた同国の人種差別的現象の発現要因を解明しようとするものである。 こうした構想のもとに本研究計画の二年目は、ひとつに反知性主義の基底を成す福音主義的共和主義が発現した事例としてアンテベラム期最大の選挙権獲得闘争であるロードアイランド州の「ドアの反乱」(1841-43)に着目した。この反乱においては独立宣言に由来する人民主権論を根拠として男子普通選挙制の実現が叫ばれたが、実際にドア派が制定した憲法において導入されたのは白人男子普通選挙制であった。この矛盾を解明すべく、ドア派の人民主権論を反知性主義の観点から再検討することにより、そこに内在した白人性的要素を析出した。 いまひとつは黒人奴隷制の廃止後に唱えられた黒人差別思想の分析を行った。具体的には法的な人種平等が実現されつつあった南北戦後直後に発行された『黒人―その人種学的地位は何か(The Negro:What is His Ethnological Status?)』と題するパンフレットをめぐる論争の分析を行った。黒人の劣等性を聖書に求めつつ人種平等社会の実現不可能性を主張する本パフレットのロジックやそれを支持する議論に内在する白人性意識を析出することにより、南北戦争後の再建期に族生したクー・クラックス・クラン等の人種差別主義団体の主張を支えた反知性主義の実相を解明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の課題は南北戦争前後の時代における人種差別的反知性主義の具体的な発現形態に焦点を当て、その再検討作業をつうじて反知性主義に内在する特殊アメリカ的な白人性概念を析出することにあったが、昨年度実施できなかった海外資料調査をおこない、日本では参照できない種々の一次資料を入手することができたため、上記課題の解明を順調に進めることができた。以上により、上記の自己評価になった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はこれまで明らかにした成果を踏まえつつ、合衆国の人民主権論の系譜に反知性主義を位置づけ、そこに見られる白人性意識を解明するとともに、新たに異人種間結婚禁止法に焦点を当てる。同法の起源は植民地時代の1660年代にさかのぼるが、同法を制定した州が劇的に増加したのは19世紀以降のことであった。南北戦争後には合衆国憲法修正第14条によって人種による市民権差別が禁止されたにもかかわらず、婚姻に関しては依然として人種の壁が立ちふさがっていた。それを可能にした要因を解明すべく、諸州の異人種間結婚禁止法の制定過程、同法関連訴訟の記録、および関連する新聞記事を検討することにより、反異人種間結婚論にみられる反知性主義的要因を明らかにする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、当初種々の一次資料を資料集ないしマイクロフィルムの形態で購入する予定をしていたものの、現地における資料調査の結果、閲覧と収集が可能であったことから一部の資料に関しては購入の必要がなくなったことがあげられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
資料調査および学会報告のための国内外旅費の計画的執行と関係文献・備品の段階的購入を行うことにより、経費の合理的執行に努める予定である。
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