2017 Fiscal Year Research-status Report

メロヴィング朝フランク王国における隷属民に関する総合的研究

Research Project

Project/Area Number	15K02937
Research Institution	Nagoya University
Principal Investigator	加納修名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (90376517)
Project Period (FY)	2015-04-01 – 2019-03-31
Keywords	隷属民 / メロヴィング朝 / 奴隷
Outline of Annual Research Achievements	前年度までの研究で得られた成果を、「トゥールのグレゴリウスにおける奴隷たち－メロヴィング期の奴隷制に関するひとつの覚え書き」と題する論文にまとめた。この中では、6世紀において農業以外の仕事に従事する隷属民が数多く存在していたこと、とりわけ職人層が隷属身分に属していたこと、また王の奴隷に着目して、彼らがしばしば公的な任務を委ねられていたことを明らかにした。教会所属の隷属民について、教会会議録、トゥールのグレゴリウス『歴史十書』とその他の著作、ゲルマン部族法典に基づいて調査を行った。教会所属の奴隷に加えて、司教、司祭、助祭らが奴隷を有していて、こうした奴隷所有が古代末期以来の伝統であったことを明らかにした。教会の奴隷の地位については、彼らが王の奴隷と同等の地位をメロヴィング初期の間に確立したこと、また教会の奴隷が一般の奴隷よりも負担の面でより恵まれた地位を享受していたことが明らかになった。また自由身分から隷属身分への転落の問題、ならびに隷属身分からの解放、隷属身分をめぐる訴訟を検討し、この時期の自由と隷属の境界をめぐる諸問題に取り組んだ。考察に当たっては、書式集や証書などの史料により恵まれたカロリング期にまで時期を拡大し、メロヴィング期との相違、メロヴィング期からの発展を検討した。隷属身分をめぐる訴訟記録については、国王の裁判文書を主たる素材として、ベルギーのナミュール大学のセミナーにおいて報告した。なお奴隷解放については、教会における解放が最も広く行われていたことが明らかになった。
Current Status of Research Progress	Current Status of Research Progress 2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned. Reason 前年度の研究計画において予定していた教会の隷属民についてある程度調査が終了し、その性格について重要な所見を得ることができ、研究の遅れを取り戻すことができた。今年度に予定していた、自由身分から隷属身分への転落の問題、ならびに隷属身分からの解放についても同時に調査を進めることができた。とりわけ奴隷解放については、フランク時代から残る史料の大半を収集し、分析することができた。同じく、自由身分から隷属身分への転落についても、トゥールのグレゴリウスの著作やアンジュー地方書式集に基づいて調査することができたので、研究はおおむけ予定通りに進んでいる。
Strategy for Future Research Activity	隷属化の諸契機、奴隷解放、隷属身分をめぐる訴訟に着目し、この時期の自由と隷属の境界をめぐる諸問題の検討を続ける。史料としては、叙述史料に加えて、とりわけ証書と書式集の分析を行う。本年度は最終年度にあたるため、メロヴィング朝フランク時代における隷属民の実態、ならびに隷属をめぐる観念について得られた所見を総合する。
Causes of Carryover	次年度使用額が生じた主要な理由は、パリ・ベルギー出張の期間を長くとれなかったためである。次年度の研究費として、古代末期から中世初期にかけての歴史関係、とりわけ隷属民関連の資料と文献の購入に研究費の大半を充てる。また研究打ち合わせと研究発表のために国内旅費を使用する予定である。