2016 Fiscal Year Research-status Report
市外市民と上級権力:西欧中近世における都市・国家関係の研究
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15K02940
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
藤井 美男 九州大学, 経済学研究院, 教授 (70183928)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ブルゴーニュ国家 / ブラバント公領 / 中世都市 / 政治権力 / 市外市民 / 都市参事会証書 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ヨーロッパ学界の最新の動向を念頭におきつつ、かつて科学研究費の補助を受け、専門家を糾合しつつ組織的な研究を行なった研究(科研費補助金、研究種目:基盤研究(B)、課題番号:22320146、研究期間:H22~H24年度、研究課題名:ヴァロワ朝ブルゴーニュ国家の社会・経済・文化に関する統合的研究)の延長線上に位置するものとして実施している。 すなわち、「徴収と分配」という側面からさらに踏み込み、前近代に特徴的な分散的諸権力が、どのようにして統一的中央権力へと収斂してきたのか、を問題にするということであり、「領域・法・政治システム」の問題を、「都市・市民・国家」と関連づけて把握しようとする試みなのである。こうした課題を解明していく際に一つの焦点となるのが、中近世における都市的権力と領主的上級権力との関係である。しかもそれは、対立・紛争・訴訟という形で具体的に捉えられることが多い。なぜなら、社会的秩序の安定に向けた公的機能として有力なものの一つが、「調停・仲裁・裁判」(つまり、社会的調整機能としての紛争解決)であり、中近世の西欧でそれを体現したのは、都市と領邦君主だったからである。 本研究は、アントウェルペン・ブリュッセル・レウヴェン・ス=ヘルトーヘンボスといった、中近世ブラバント公領の諸都市における市外市民とブラバント公やブルゴーニュ公、ハプスブルク家など上級権力との関係が「近代国家」形成にどのような影響を与えたか、微視的な視点から上述の課題にアプローチしている。そうした中、初年度で得られた成果は、中世ヨーロッパに発する最新研究の摂取はもちろん、我国でも世に問われるようになった比較的最近の諸研究をも吸収しつつ、別項目で示す通り、具体的な論考という形で示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の具体的成果として、論文(藤井美男「中世後期ブラバント公権と都市―近代国家形成過程における君主=都市関係の予備的考察―『経済学研究』九州大学、第83巻第5・6合併号, 2017年3月, p.51-70)をを刊行することができたことを主たる理由とする。ただし、H28年度に予定していたベルギーにおける資料調査を、同国におけるテロ発生のため実施延期とせざるを得なかったことはここに付記しておきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度から、「非訟裁治」や「広義の公証」に関する研究動向と課題の把握に努め、海外の研究機関での調査を軸に、先行研究と資・史料をとりまとめることとしている。3年目となる平成29年度は、1年目、2年目とほぼ同方向で、本年度に延期した海外での文献や研究素材の探索を含め、「市外市民」「都市参事会証書」「公証」「非証裁治」などについて、より微視的な資・史料の渉猟をいっそう充実させる。そして、そうした調査の成果として、研究動向に関する学会報告と論文発表を行う。
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Causes of Carryover |
H28年度において、研究遂行に必要な資料調査と探索を、研究対象地域であるベルギー王国(ブリュッセル自由大学およびレウヴェン・カトリック大学)にて実施する計画を立てていた。しかしながら、ベルギー国内で同年3月後半連続テロ事件が発生したため、H29年度への渡航延期を余儀なくされた。「次年度使用額」の652,397円は、ベルギー渡航と滞在にほぼ必要な費用である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上述の事由により、H29年度においては「次年度使用額」の652,397円をベルギー王国への渡航および滞在費用の一部に充当する。なお、H29年度に本来交付される500,000円のうちからそれらの費用に追加使用する必要があると考えている。なぜなら、H29年初頭以来円安傾向が続き、円ベースでの支出が相対的に増加することがほぼ確実だからである。
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