2015 Fiscal Year Research-status Report
市場原理の拡大と公共圏の科学―19世紀ドイツを例に
Project/Area Number |
15K02951
|
Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
櫻井 文子 専修大学, 経営学部, 准教授 (60712643)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 自然科学 / 結社 / 市場経済 / 都市 / 科学知 / 公権力 / 公共圏 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、19世紀ドイツの都市公共圏で隆盛した科学の実践と市場経済の関係を再検討することである。具体的には、都市住民の知的活動の拠点だった自発的結社などの非営利団体と、科学関連の市場やそこで営業する業者や施設との接点に着目し、両者の競合・共益的関係の具体相を明らかにする。そして、結社と市場双方への監視・介入を強める公権力の介在を軸に、結社文化・市場・公権力3者の関係性の変化を実証的に検証することで、近代ドイツ科学の制度化を理解する総合的なモデルを提示する。 初年度である平成27年度は、(1) 理論的枠組みの構築、(2) 自発的結社と市場経済の競合・共益的関係の構築に至る歴史的過程の分析を行った。具体的には、国内において関連分野の二次文献を体系的に調査し、近代ドイツ科学をめぐる問題群を整理した上で、自発的結社・市場経済・公権力の3者の関係性についての作業仮説をまとめ、今後の研究の理論的枠組みとした。その上で本研究の第一の論点となる、自発的結社と市場経済の競合・共益的関係の構築に至る歴史的過程の分析を開始した。19世紀前半のドイツ語圏の都市部では、出版物や講演会などの多彩な科学知の媒体が発達し、公衆による科学の実践が興隆した。中でも都市住民の知的活動の拠点となったのが、公益のための科学研究と教育を目的に設立された自然科学結社だった。有志の寄付を財源とし、公益性と非営利性を謳った結社だったが、その運営や活動には、営利目的の業者や施設も深く関与していた。そこで本年度は、自発的結社と市場経済の具体的な接点を探ることで、両者の間に競合・共益的な関係が成立する過程を検証することで、今後の考察の土台とした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国内で行った関連分野の二次文献の調査は、予定通り行うことができた。また、夏期には、ドイツにおいて史料調査を計画していたが、予定通り7月30日より8月20日まで渡独し、ベルリンとフランクフルトにおいて資料調査を行った。ベルリンでは、日本国内では閲覧することができない19世紀定期刊行物および出版物の調査を国立図書館にて行い、フランクフルトでは、同市のJ. C. ゼンケンベルク大学図書館のフランクフルト特別閲覧室において、19世紀にフランクフルトで刊行された出版物や定期刊行物の調査を行った。なお、この調査については、当初は同市のフランクフルト都市史研究所にて行う予定だったが、ゼンケンベルク大学図書館の旧カタログ(カードカタログ)を調査した結果、同大学の蔵書で調査を進めた方が効率的であることが判明したため、予定を変更し同図書館で調査を行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、(1) 結社と市場の関係性の再編成を経て公権力の介入に至る過程の分析と、(2) 国内外での中間成果発表を行う予定である。 19世紀中頃以降に主に都市部で余暇文化が発達すると、ドイツ各地の都市では動物園や植物園のような大規模で有料の公共文化施設が登場した。こうした新興施設は、非営利の結社を運営母体としながらも経営に市場原理を導入し、既存の結社とは桁違いの財政規模と集客力を誇った。競争激化に直面した既存の結社の間から、市当局の介入を望む声が高まった結果、それまで不干渉主義を貫いてきた当局は、財政援助や規制を部分的に導入した。このように結社と市場の関係の再編成を経て、公権力の介在へと至る局面を検証することが本年度の課題である。 そこで夏期には、まずフランクフルト都市史研究所が所蔵する、市参事会や議会の記録から、市当局が世紀中期以降に実施した自然科学結社への財政援助の対象と規模、さらには動物園や植物園といった公共文化施設に対し、運営方法や敷地移転に関して当局から行われた規制や指導を確認する。 こうした調査から得られた中間的な成果は、国内外の学会・研究会で口頭報告において発表し、議論の整理に役立てたい。その際には、アメリカ科学史学会やヨーロッパ都市史学会などの国際学会で、科学と市場経済をテーマに国際的なパネル・セッションを組むことで、国際的な研究交流と情報交換を促進し、比較史的な視点からの研究の発展に寄与したい。
|
Causes of Carryover |
平成27年度に購入する予定だった19世紀ドイツ科学史関連の文献2点が書店において在庫切れのため年度内に購入できず、その購入に充てる予定だった金額が次年度使用額となった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
購入する予定だった文献はすでに入荷されているため、平成28年度中に購入することで使用する予定である。
|
Research Products
(1 results)