2015 Fiscal Year Research-status Report
近世末イギリス消費文化とオークション:2つの役割の分析
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15K02952
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
大橋 里見 専修大学, 文学部, 兼任講師 (40535598)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | オークション / 公開販売 / 消費社会 / 消費文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、近世イギリスのオークションの、1.生活様式、文化、趣味を社会に伝える役割、2.弁済方法としての役割、を検討し、消費社会成長期の近世社会においてオークションという「中古」市場がはたした、特殊な経済文化的役割の解明を進めている。 1.に関する作業は以下の4点である。①:居宅開催のオークションでの商品(所持品)レイアウトを目録から分類整理し、商品の目録上の記載パターンをデータ化する。②:遺言書付帯遺産目録の所持品記載と①で確認した記載パターンを照合する。③:①②をふまえて、オークション(市場)での商品記載形式と、実生活での品物の所持パターンの近似性有無を調査する。④:③の結果から、市場で提案された商品所持の型が、実生活における品物所持のしかたに影響したかしなかったかをデータ化することで、鳥瞰的に把握する。2.に関する作業は、債務者の所持品がオークションされる場合されない場合の条件の検討である。 H27年度は、1.の①②と、2.を部分的に進め、それぞれ、今後の作業に必要な見とおしを立てた。1については入手済みのデータとロンドン地方文書館で遺産目録を一部取集し、市場(オークション)で商品を販売するさいに作成される目録の商品記載のパターンが、商品購入後の生活のなかでの品物の所持の型に呼応するケースを一程度確認した。これには市場経済が拡大する時期に、人々の消費生活が、家族を中心とした世代間で遺産等の継承時に示される情報だけではなく、市場という外部が与える情報をもとに形成されていた可能性が高いことを示しており、今後の研究を進めるうえで重要な成果である。2については、主に、ロンドンの文書館で債務者処理にあたった弁護士の記録を検討し、修正箇所を含め、基礎作業を行った。詳細は以下「進捗状況」に示すとおりである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H27年度は、「研究実績」に記載した作業の、1.の①②と、2.をそれぞれ部分的に進めた。その結果、1.①から、オークション市場で商品を売るさいの目録記載形式に、一定のパターンが確認された。また1.②では、商品購入後の実生活において品物所持様式が、1①で検討した目録記載と酷似するケースを見出した。1①②に以上の相互関係を確認したことは、消費社会成長期の近世社会に、各種商品を生活にとりいれるさいに、市場、とくに中古市場における提案が積極的に参照されていた可能性があることを示唆するものとみることができる。よって、今後も同様作業を進める意義を確認できたといえる点で、計画はおおむね順調に進んだと判断する。 2.については、ロンドンの弁護士の営業記録から、借金返済にオークションを用いることができたケースとできなかったケースがあったことを確認し、初期的には一定の成果を得た。ただし現状では、一部の特定例の確認にとどまっている。また、H27年に検討した史料では、借金返済にオークションを利用できた、できなかった条件の違いを明確にすることはできなかった。この点をふまえて、今後は、条件の検討を、自治体の役職関連記録や裁判記録、顧客のやりとりなど、債務者の人物評価を示す史料を開拓して行う必要があると考えている。よって総合的には、作業は順調であるが、今後多少の変更も必要であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究項目1.については、H27年度におこなった部分的作業の結果から、研究上の見とおしは、おおむね当初の計画に従って進めていくことができることが確認できたと考えている。オークション目録の分類・整理等に関する史料・データソースには、日本でも使用可能なオンライン・データベースを多用しており、今後もその方針を継続する。ただし、このオンライン・データベースには、必要なすべての情報、史料が掲載されていない可能性がある。また、遺産目録については、国立文書館所蔵分については、同館のウェブ検索による史料利用が可能であるが、同館が所収していない目録について、地方文書館での史料収集作業が必要になる。H27年中の作業によってこの点について明らかになったので、今後は、渡英のさい、地方文書館での史料収集の割合を増やす予定である。 研究項目2.関連の作業については、検討対象を解明するうえで、史料の種類を増やす、変更するなどの処置が必要なことが明らかになった。そのため、当初予定していた地方文書館での弁護士関連の個別史料のほか、自治体の役職関連記録や裁判記録、顧客のやりとりなど、債務者の人物評価をより明確かつ積極的に示す可能性の高い史料を開拓する予定である。当面は、現在も使用しているロンドン(ウェストミンスタ)の文書館を利用する予定である。
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Causes of Carryover |
研究期間初年度として、研究活動に必要な機器類の購入を計画し一部遂行した。そのうち、購入したノートパソコンの価格が予定を下回ったため、次年度以降に購入を考えていたカメラなどの機器類購入を急きょ考えたが、必要な機械と適切な金額とが一致しなかったため、次年度に繰り越し、適切な購入をすると決断した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H27年度に購入しなかった、カメラ(文書館での史料撮影に使用する予定)の購入を考えている。ただし、本年度は研究機関2年目として中間的成果を発表する予定しており、その一部は英語にて執筆の予定である。よって、必要であれば、校閲費用に転用する可能性もある。
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