2017 Fiscal Year Research-status Report
近世末イギリス消費文化とオークション:2つの役割の分析
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15K02952
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
大橋 里見 立教大学, グローバル・リベラルアーツ・プログラム運営センター, 特任准教授 (40535598)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | オークション / 公開販売 / 消費社会 / 消費文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
経済発展期の近世ヨーロッパ、とくにイギリスでは、商品と消費者が各種の方法や場面で密接になった。これを前提に、本研究では、古来の売買方法オークションが、近世イギリスの社会経済環境に深く関わっていた実態を、1.消費が形成した個々人の生活様式と文化、趣味を社会に伝える役割(消費財の社会化)、2.消費から生じた借金の弁済方法としての役割、の二面から検討を行った。検討をつうじて、オークションを通じた中古品市場が担った、経済文化促進の役割の解明を進め、商業と消費が他のヨーロッパ諸国に比して早く成長し、世界で最も早く産業革命を経験したイギリスの近世社会的特徴を論じる予定である。 1に関して次のように研究を実施した。①売主の居宅で開催されたオークションの目録の、商品(=所持品)記載方法を分類・整理→商品の目録上の記載パターンをデータ化。②①と同様の作業を、遺言書付帯遺産目録についても実行→①で分類した記載パターンと照合。③①と②をふまえ、オークション(商品売買現場=市場)での商品記載と実生活上の品物所持のしかたの近似性の有無を調査。④③の結果から、市場で示された商品記載が、生活の中井での品物の所持のしかたとどんな関わりがあるのか、データをもとに連関性を把握した。 2では、債務者の所持品がオークションされる場合とされない場合の各条件、環境の検討を、次の方法で進めた。①債務者を扱った弁護士(ウェストミンスタ(ここではロンドンと同義)在)の業務記録から、オークションを開催された、されなかった債務者の割り出し→両者の条件の違いを精査。②個別の地域社会で弁済のために開催されたオークションの事例をとりあげ、オークションが開催された、されなかった場合の背景、地域社会の債務者にたいする処遇を解明。ここでは、日記、地方の公的・私的文書と、オークションにかかわった弁護士の業務記録などを活用した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
H29年度は、これまでの年度の作業をふまえ、前項「研究実績」記載の、検討課題1-①と②、2の作業をそれぞれ進めつつ、最終年度にあたるH30年度のまとめに向けての準備作業をする予定だった。しかし全体としては、H28年度に引き続き、予定より研究の進展が少なかった。大きな理由は、とくに研究を開始したH27年度に課題1についての作業が一定度進んだため、H28年度は2に作業の多くを割いたことで、むしろ、H28年度全体の作業が遅れたうえに、本研究の本質的内容にかかわる問題(オークション目録上の商品レイアウトと、遺産目録上の所持品レイアウトの連関性。前年度の報告に記載済み)が生じたため、その点をひきつづき考慮しつつ慎重に検討を進める必要があったためである。 他方、2は、研究開始初年度(H27)以降順調に研究が進んでおり、H29年度も、個別の事例の調査検討をふくめ作業を進めた。とくにH28年度に進めた地域社会と負債者との関連を示唆する史料の解読にくわえ、2-①で検討しているウェストミンスタの弁護士の、地域社会での役職活動に関連して新たな史料をみいだした。弁護士というプロフェッショナルとしてのみならず、地域社会のローカルな活動のなかで、負債者との接点を発見したことは、2-②との比較検討において有益である。史料の解読と付帯的作業は、研究期間最終年となるH30年度に進めるが、ロンドンのケースを、地方社会との比較を念頭におきつつ、大都市における人々の社会関係という観点から考察することを予定している。ただし、事例はまだ不十分であり、この点は、最終的に考えるべき問題として残された。
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Strategy for Future Research Activity |
課題1は、史料の性質をめぐる問題の解決が重要課題である。研究の遅れの解決は、この問題の解決の在り方次第であるが、これまでに明らかになっているパターンを検討の材料として、一定の結論を得ようと考えている。とくに、H29年度までと同様、イギリスの地方文書館での作業がほとんど手つかずのままなので、この面を進めるうえで相当の努力が必要と自覚している。課題2は、調査・作業をする過程に、一部の地方文書館利用も比較的容易であることが判明している。また、日本からのアクセスが可能なデータベースはさらに活用しつつ、研究開始当初の方針にもどり、作業を復活する予定である。2-②については、前項の末尾に記したとおり、地方共同体関連の事例収集を中心におこないつつ、最終的には、ロンドンでのケースの調査と考察をする予定である。課題1、2のいずれも、関連研究者の示唆を受け続けているMaxine Berg教授(ウォリック大)から、これまでと同様にさらに助言を求めて作業する予定である。
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Causes of Carryover |
研究期間3年目は、配当の金額の大部を調査作業のためのイギリスへの渡航・滞在に多くに充てる計画だった。大半においてその目的は達したが、滞在日程の関係で、当初予定した金額よりも安い金額を使用するに終わった。旅費として使用しなかった一部は、予算分とあわせて資料(物品)の購入にあてる予定だったが、調整をうまくすることができなった。さらに、成果としての論文執筆は、当初英語論文の執筆を予定しており、よって校閲費用を使用する予定だったが、日本語論文の執筆に切り替えたため、校閲費用を使用しなかった。 最終年次には、1回の海外調査を予定しているが、研究の進捗にあわせて、調査回数を増やすことを考えている。そのため、一定の資金を次年度に持ち越し、使用することを考えたため。
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Research Products
(2 results)