2018 Fiscal Year Research-status Report
近代イギリスの地方都市における農業協会の活動と「草の根啓蒙」の展開
Project/Area Number |
15K02955
|
Research Institution | Tokyo Woman's Christian University |
Principal Investigator |
坂下 史 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (90326132)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 西洋史 / イギリス / 啓蒙 / 農業 / 都市 / 知識伝達 / 公共圏 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近代イギリスの民間団体のひとつである農業協会の諸活動に、従来とは異なる角度から光を当て、その社会的な役割や意味を解明する。農業協会の多くは18 世紀半ば以降に地方都市に設立され、情報の結節点になったとされる。その活動は狭義の農業振興にとどまらなかった。これは当時の農業が、農学として学問の一部を構成し、食料増産や産業振興を通じて経済に直結し、さらに国家や人類社会の福利の問題にも連なる分野であったことに関係する。本研究は、農業協会の活動から、工業化、都市化、国民国家化の時代に都市と農村を繋いだ交流圏の機能を明らかにするとともに、それを支えた地域社会の知識人の姿を浮かび上がらせる。これによって工業、都市、国家に偏重した従来のイギリス近代像の相対化に寄与することを目指す。 本研究は、研究期間を通じて、次の四点を主たる内容として研究を進める。a.)当該時期のイギリスにおける改革全般と農業協会の活動に関する文献・史料の収集、b.)事例研究の対象である「バースおよび西イングランド農業協会」の活動を解明するための文献・史料の収集、c.)研究協力者との定期的な研究交流、そして、d.) 研究成果の順次的な公表、である。これまで、上記のうちのa.)、b.)を順調に進め、c.)に関してはすでに研究者招聘を実施した。d.)については業績欄を参照。 30年度の実績は次の通り。a.)関連二次文献および電子データベース上の一次資料を調査した。b.) 「バースおよび西イングランド農業協会」関係の資料に加えて、「農業委員会」関係の資料も収集と調査を行った。c.)については両者の予定が十分に調整できず、短期間の面談による交流にとどまった。このため、予定の一部を次年度に持ち越すこととなった。d.)研究成果の一部を学会で発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
農業協会の諸活動の社会的な役割や意味を解明するための先行研究の調査、および基本史料(活字史料)の収集を前年度に引き続き実施した、これらについてはほぼ予定した通りに進み、問題の全般的背景が確認された。また、日本西洋史学会で研究成果の一部を口頭報告した。口頭報告は、中央の農業委員会を扱ったものであったが、本プロジェクトの中心におかれている地方の農業協会のあり方を、比較という視角で改めて確認できた。報告に対するいくつかの反応を得られたのは大きな収穫であった。一方で、予定していた研究協力者との時間をかけた交流は双方の予定があわずに実現ができず、短期間の面談による情報交換にとどまった。このため、研究のまとめに取りかかる段階で、交流を通して得た情報を成果を反映させるという当初計画からは遅れがみられることになった。
|
Strategy for Future Research Activity |
1年間の期間延長が認められたので、研究実績欄に記した四点(a.からd.)に沿ってさらに研究を進める予定である。a.)については、日本国内では、関連二次文献のうちで、農業史や思想史を含む広範なテーマに関わる文献の収集と検討を引き続き進める。b.)については、イギリスでの調査の継続を通じてこれに取り組む。そのなかで、地域の知識人をはじめとする農業協会に直接的に関係する人物に関する文献調査と資料収集を図書館、文書館等で行う。c.)としては、研究協力者との意見交換を継続する。招聘については双方の予定を勘案して実現が難しいということが分かったので、夏期に代表者が渡英して密な交流を行うことでこれに替えることを決断し、必要な調整を進めている。d.)に関しては、30年度中に研究成果の一部を口頭発表のかたちで示した。部分的な成果公表はすでに行ってきたので、今後は成果全体をまとめて公表するための準備を進める。
|
Causes of Carryover |
計画中であった研究協力者の招聘が、研究代表者と協力者のあいだの日程調整がつかずに実現できなかったことが主な理由である。研究交流は代表者のイギリス滞在時に行われたが、当初計画よりは短期間にとどまった。研究期間の1年間の延長が認められたので、この期間に集中的にこれを行い、その成果を踏まえて最終成果をまとめる予定。
|