2015 Fiscal Year Research-status Report
古代ギリシア・ローマ世界における呪詛行為の持つ社会的効用についての基礎研究
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15K02956
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Research Institution | Musashino Academia Musicae |
Principal Investigator |
志内 一興 武蔵野音楽大学, 音楽学部, 講師 (60449288)
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Project Period (FY) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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Keywords | 西洋古代史 / 宗教史 / 心性史 / 古代ギリシア / 古代ローマ / 文化人類学 |
Outline of Annual Research Achievements |
「古代ギリシア・ローマ世界における呪詛行為の持つ社会的効用についての基礎研究」をテーマとして研究を進めている。特に各地から多数発見されている「呪詛文書」という「私的・<非合理的>」緊張関係の緩和方法が、古代社会において重要な働きをしていたことを示すことで、当該社会における紛争解決を見る新たなモデルの提案を目的としている。追加採択として課題の採択を受けたため、補助金の支給自体は遅くなったものの、これまで蓄積された研究成果等を基にしながら、大きな成果を挙げることができたものと思う。 まず平成27年11月には、『西洋史研究』(東北大学)誌上に「“正義を求める嘆願(Prayer for justice)呪詛板”の起源について ―ローマ帝国西部の事例を中心に」と題する論文を発表した。古代世界から発見されている呪詛板の中で、独特の範疇を形成し、私的な紛争解決と密接に関わる「正義を求める嘆願」呪詛の文章表現や論理を、ローマ帝国西部で発見の史料を渉猟しながら比較し、その種の呪詛板の起源について検討をおこなった。また平成27年12月には京都大学学術出版会より、ジョン・ゲイジャー著『古代世界の呪詛板と呪縛呪文』の翻訳を出版した。原著(Curse Tablets and Binding Spells from the Ancient World, Oxford UP, 1992)は、主要な呪詛板史料の紹介や現代語訳、および呪詛板についての解説をおこなう、古代世界の呪詛板を研究する上での必携書である。本書の邦語訳出版は、今後の我が国における古代の呪詛研究の基礎を据える、大きな成果であったと自負している。加えて、学界における研究成果を広く世間へと公表するという意味でも、大きな意味があったものと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
追加採択として採択されたこともあり、申請時の計画よりやや遅れた状況にあると判断せざるを得ない。申請時に、初年度の研究活動として計画していたのは以下の通りである。 (1)古代地中海世界の「呪い」「呪詛板」に関わる我が国の研究は、概ねまだ手つかずの状態にあり、国内の図書館には、研究に取り組むための基礎となる史資料を集録する書籍がほぼ全く所蔵されていない、その現状に鑑み、研究のために必要な史資料集のリストアップを行い、順次その購入を進めて、検討作業を行うための環境を整備し、並行して史資料の読解・検討を行い、収集した古代世界製作の呪詛板文書の読解およびデータベース化の作業を行う。 (2)史資料発見当地における実地調査を行うために、近年大量の呪詛板が発見されているイギリスへの調査旅行を行う。さらにイギリスの歴史学・宗教学に在籍する研究者との討議機会を得ることで、資料の新発見の状況や研究動向について、最新の情報に触れる。 (3)本研究に深く関わる一般向け書籍の翻訳出版により、我が国にギリシア・ローマ時代における「呪詛」への興味を広く喚起する。さらに国内の隣接諸科学の研究者との交流・討論を行うことで、広く「呪い」という事象について、歴史学的な視点にとどまらない、様々な角度からの検討の可能性を探る。 そのうち(3)については、邦訳書の出版という形で「呪詛」への興味を広く喚起することに着手したものの、まだ隣接諸科学の研究者との交流を積極的に行えたとは言い難い。また(2)については、長期の実地調査のための予定を組めず、研究2年目に調査を持ち越さざるを得なかった。また(1)についても、データベース化にはすでに着手しているものの、研究書のリストアップ作業に手間取り、多くを研究2年目に積み残すこととなってしまった。その反省の上に立ち、研究の進展のスピードをアップさせたい。
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Strategy for Future Research Activity |
研究1年目で出遅れた部分を取り返しながら、研究2年目の予定を遂行していきたい。 まずは1年目で十分行うことのできなかった、研究に取り組むための基礎となる史資料を集録する書籍・史資料集のリストアップ・購入を進め、検討作業を行うための環境を整備することを急ぎたい。そのうえで更なる史料の読み込みを通じ、明確な成果をあげるために、問題意識をより先鋭化するように努めたい。また1年目には予定が立たなかった調査旅行を、夏期休暇中と春期休暇中の2回実施し、研究課題となっている事象がおこなわれた環境についての認識を新たにし、また海外の研究者と交流することで、最新の研究成果を吸収するよう努めたい。また申請時に計画していたとおり、19世紀に編纂が開始された史資料集は、残念ながらその後、収集された碑石や呪詛板そのものの行方が分からなくなるなどしていることに鑑み、碑文集に含まれた情報の再確認作業についての情報収集に鋭意努めることで、研究に活用する史資料の正確性を担保したい。
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Causes of Carryover |
追加採択によって交付の決定をいただいたため、予算執行のための準備が整っておらず、また予算執行のための時間的余裕もあまりありませんでした。とりわけ、申請書において1年目の研究活動として予定していた、海外の現地調査旅行については、スケジュールの折り合いを付けることができませんでした。その他、科研費による補助を最大限有効に活用するには、しっかりと態勢を整えた上で、次年度に使用する方が望ましいと考え、結果、次年度使用額が生じることになった次第です。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究1年目に予定していながら実施できなかった活動を、研究2年目のスケジュールの中に組み込みながら、確実に実施します。
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Research Products
(2 results)