2015 Fiscal Year Research-status Report
暗黒期~アルカイック期クレタにおけるポリスの法秩序構築と葬祭礼の変容に関する研究
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15K02957
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
古山 夕城 明治大学, 文学部, 准教授 (10339567)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | クレタ / 暗黒期 / アルカイック期 / ポリス / 葬祭礼 / 聖所 / 墓所 / 法 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、クレタにおける暗黒期からアルカイック期の大規模居住地および高地避難集落の存在状況を、主として近年進展してきた考古学的知見の利用と現地踏査での実見観察によって確認し、そこにおける葬祭礼空間の時代変遷とその背後にある社会構成との関わりについて考察した。初年度の研究過程で、クレタにおける状況の比較対象としてギリシア本土の状況について、また先史時代の宗教世界観の特徴について、専門的知識の供与を受けて本研究の批判的検証を行なうため、9月26日に明治大学においてワークショップを開催し、福山大学人間文化部・人間文化学科の山川廣司教授による「古代ギリシア・オリンピア巡礼」と題する講演を実施した。 また、本年度の実施計画にもとづき、7月末から8月末まで約4週間のクレタ・アテネのギリシア調査およびドレスデン・ライプツィヒ・ベルリンのドイツ調査を実施した。この間、(a)クレタにおいては、イラクリオン考古学博物館・ハニア博物館の当該期クレタの出土遺物を、アイヤ・トリアダ遺跡・ゴルテュン遺跡・プリニアス遺跡の残存遺構を観察し、デジタルカメラによる画像データを収集し、(b)アテネでは、国民考古学博物館収蔵のクレタ島遺物と当該時期のギリシア本土の聖所・神域・墓所からの出土品を比較参照して図像データとしても収録し、アクロポリス遺跡の古神殿とアゴラ遺跡の墓壙を含むアルカイック期の遺構を現場検証した。(c)ドイツにおいては、アルカイック期ギリシアの彫刻作品・青銅製品および陶器のデータ収集のため、ドレスデンのアルベルティヌム彫刻展示室・ライプツィヒ大学の古代博物館・ベルリンのペルガモン博物館および古代蒐集館旧館・新館で調査を行なった。また、在アテネ英国研究所と米国古典学研究所の付属図書館において、関連資料の収集に努め、とくに近年のクレタでの発掘と領域研究の成果を調査した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究活動の第1年目として、暗黒期におけるクレタの社会構成を考古学的分野の研究動向をフォローしつつ、クレタ島での実地調査にもとづいて立地と環境の観点から葬祭礼の空間構成を考察し、また聖所と墓所からの出土遺物の観察と画像資料の収集に努め、入手できた資料を随時その場でパソコンに入力し、共同体の実態解明のための基礎資料としてデータ化することに重点を置いた。 以上の作業を進める中で、ポスト宮殿期以降、考古学的時代区分では後期ミノア第3期C局面(LMⅢC)から、後期幾何学文様期(LG)への時代変遷においてクレタ社会がいくつかの転機を経験しており、避難集落の盛衰および大規模居住地の展開だけでなく、僻地聖所の存続とそこにおける奉納品の変化からも、クレタの人々は暗黒期の社会と生活のあり方を変転させていたことが浮かび上がってきた。 しかし他方で、クレタ各地における近年の領域調査の進展によって、多数の田園小集落の存在が明らかにされつつあり、これらの成果を充分に踏まえた総合的観点が、宗教拠点である聖所・墓所での葬祭礼の変容の理解にきわめて重要であることを認識した。 したがって、海外現地調査での遺跡踏査と資料収集については予定通りに実施して、初年度の目標であった暗黒期クレタ社会の実体把握にむけての基礎作業の課題はほぼ達成できたと考えるが、考古学分野における最新の成果を吸収するという面ではなお努力が必要であるという点で、現在の研究達成度はおおよそ80%程度と評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究第2年目にあたる平成28年度の研究活動は、①第1年目で新たな課題となった近年の領域調査による田園小集落の状況を掌握すること、②クレタの葬祭礼における暗黒期からアルカイック期の歴史的展開を神殿の登場と法観念とのかかわりを焦点にして考察すること、③「ギリシア・ルネサンス」論の問題整理と比較研究のため、クレタのみならずギリシア本土のギリシア人共同体の葬祭礼について調査を実施すること、の3点を主な課題として取り組む。 その具体的方法として、ギリシアおよびイタリアに現地調査に赴き、クレタ島では田園部の踏査と聖所奉納銘の存在状況の把握、ギリシア本土ではアテネ・アッティカの聖所と墓所の調査および出土品における文字表象の確認、またペロポネソス半島と中部ギリシアにおける主要聖所の成立事情の実地検分、イタリアにおいてはギリシア人入植地の異文化交渉と社会構成を参照し、ギリシア人入植地やエトルリアに輸出されたアルカイック期ギリシア陶器にみえる葬祭礼図像の画像データ収集を行なう。 そして、クレタにおける奉納銘と墓碑銘の成立過程を歴史的に追跡し、聖別空間に文字表象が表出するという歴史現象のなかに、神殿に刻まれた法碑文と社会秩序の構築の関わりを位置づける考察を試みる。
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