2015 Fiscal Year Research-status Report
環大西洋アボリショニズムと「アメリカ体制論」の統合的研究
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15K02962
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
肥後本 芳男 同志社大学, グローバル地域文化学部, 教授 (00247793)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アボリショニズム / 印刷文化 / 共和主義 / 環大西洋史 / アメリカ独立革命 / 奴隷制 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度は英米のアボリショニストの連携と印刷媒体の役割について夏休暇を利用してボストンおよびフィラデルフィアで資料調査・閲覧をおこなった。建国期アメリカの傑出した黒人船長で商人のポール・カフィとイギリスのアボリショニストとの連携に関する史料や書簡を閲覧することができた。これらの調査を踏まえて、同志社大学人文科学研究所第13部門研究会において「アメリカンネスとインディアンネスのあいだ―ある混血船乗りの『航海物語』を読む」(2016年3月1日 於同志社大学)と題する研究報告をした。同時に、環大西洋的なアボリショニズムの台頭の文脈のなかでカフィの活動とアメリカ植民協会の関係を論ずる論考を脱稿した。現在、出版に向けて入稿過程にあるので本年秋には本プロジェクトの成果の一部の公開を予定している。 アメリカ建国期の近代的な印刷文化との関連において、フィラデルフィアの印刷業者の動向に注目して調査・研究をおこなった。とりわけ、アイルランドからの移民で有力な印刷業者として急速に頭角を現したマシュー・ケアリ―に着目した。ケアリーは1790年代に急進的かつ進歩的印刷業者兼雑誌編集者として名を馳せるようになるが、彼がアメリカの出版事情をどのようにみなし、近代的な公共圏をいかに利用しようとしたのかを一次史料を通して分析した。今年度は、19世紀初頭のケアリーの思想とアボリショニズムとの関連に焦点を当てて追究する。具体的には、1812年戦争後「アメリカ体制論」の主要な論客となったケアリーが、根強く存続した南部奴隷制の問題を「アメリカ体制論」の中にいかに包摂しようとしたのかを掘り下げる。また、ケアリーとアメリカ植民協会(1816年12月創設)の接近を、環大西洋アボリショニズムの文脈に位置づけて検討するつもりである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本プロジェクトの基礎的な調査・研究については、夏休暇中の現地調査も首尾よくおこなうことができたので、これまでの研究の進展状況はおおむね順調といえる。帰国後、授業をはじめ本務校での職務が重なったこともあり、秋学期に資料およびデータを精査・分析する時間を十分に割けなかったことは反省材料としたい。また、春休暇を利用して2週間程度のイギリスでの史料調査を当初計画していたが、3月に公務が入ったため実現できなかった。しかし全体的には、年度末に研究成果の一部をなんとか取りまとめ、学内の研究会で報告することもできた。研究会で出された質問や貴重なコメントを真摯に受け止めて今後の研究の推進に役立てるつもりである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究としては、まず19世紀初頭の英米のアボリショニストの活動の連携とその協調関係の変容について考察する。次に、印刷文化の視点から1812年戦争以後から1820年代に台頭した「アメリカ体制論」のなかでアメリカ植民協会の活動はどのように位置づけられたのか、また英米のアボリショニストによる印刷媒体の活用が環大西洋的な公共圏の形成にいかなる貢献を果たしたのかを一次史料および重要な二次文献を通して検証する予定である。 現在英米の主要な図書館及び古文書館ではデジタル史料化が進んでいるものの、いくつかの一次資料については現地での調査は不可欠である。それゆえ、夏休暇などを利用して今年度もアメリカおよびイギリスでの史料調査を敢行するつもりである。
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