2016 Fiscal Year Research-status Report
環大西洋アボリショニズムと「アメリカ体制論」の統合的研究
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15K02962
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
肥後本 芳男 同志社大学, グローバル地域文化学部, 教授 (00247793)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アボリショニズム / 黒人奴隷 / アメリカ植民協会 / シエラレオネ / 環大西洋革命 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、18世紀末から19世紀初頭にかけて英米のアボリショニストたちの連携と彼らの運動がどのように奴隷貿易廃止運動から奴隷制廃止運動へと移行していったのかを中心に調査・研究を進めた。当時の国際状況の変化、特にハイチに続いてジャマイカにおける西インド諸島での奴隷反乱の勃発がアメリカ合衆国内のアボリショニストや政治指導者、南部プランター利害にどのような影響を及ぼしたのかを、ヘンリー・クレイやマシュー・ケアリー、ジェームズ・ハモンドなど鍵となる政治家の言説を「アメリカ体制論」の視点から分析した。 建国初期に奴隷制問題について連邦議会は一時的に妥協したものの、1819年ミズーリ準州の州昇格をめぐり奴隷制の是非が抜き差しならない問題として再浮上した。この時期創設間もないアメリカ植民協会は黒人奴隷を合衆国外に移住させる方策を模索したが、これに反発して奴隷制即時廃止を求める急進的なアボリショニストのグループが様々な印刷媒体を用いて奴隷制の悪について世論に訴え始めた。加えて、ニューヨークでは黒人最初の新聞『フリーダム・ジャーナル』紙も発行された。本年度は主に1820年代から30年代の奴隷制をめぐる論争を当時急速に進展しつつあった「コミュニケーション革命」の文脈の中に位置づけて再検討する作業を行った。最近、アボリショニズムを単に奴隷制廃止論者という以上に国際的な人道主義者の連携の嚆矢とみる研究書が刊行されており、これらの議論を踏まえてアメリカの奴隷制廃止運動を掘り下げる必要がある。 現在海外での研究調査に基づいてアメリカ史学会年次大会での研究報告と論文を準備中である。昨年来の成果の一部として、共著『海のリテラシー―北大西洋海域の「海民」の世界史』の第6章に「黒人船長ポール・カフィ―アボリショニズムと環大西洋商業ネットワーク」と題する論考を寄稿し、昨年8月に創元社から刊行された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画に沿って本研究はおおむね順調に進んでいるといえるものの、本務校の学年暦や入試関連業務などの雑務のため夏休暇が非常に短くなっており、海外調査の期間が当初の計画通り十分に取れない状況にある。とりわけ、28年度は19世紀初頭のアボリショニズムの台頭に様々な印刷媒体が果たした役割などを網羅的に調査・検討するつもりであったが、まだ一部の雑誌や新聞の分析しかできていない。日本国内で閲覧・入手可能な印刷媒体を探るとともに、効率的なリサーチと執筆時間の確保が目下の最大の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、本研究の3年目に当たり、これまでの海外調査や史料・データの分析と成果の取りまとめに入りたいと考えている。同時並行的に、現時点で必要なリサーチや不足している史料やデータなどの収集を効率的に行う必要がある。授業や公務との間にいかに研究時間を確保できるかにかかっているが、18世紀末から19世紀初頭の英米を中心とした国際的なアボリショニズムの連携とアメリカ国内での奴隷制即時反対論者への反発を体系的に把握すべく具体的な成果を挙げられるように最大限努力したい。
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Research Products
(4 results)