2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K02964
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
坂本 優一郎 関西学院大学, 文学部, 教授 (40335237)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | イギリス国債 / 戦時公債 / 公債請負人 / ロンドン資本市場 / ロンドン金融市場 / 国民貯蓄運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、短期的アプローチと中長期的アプローチとを組み合わせた分析手法を採用しており、平成30年度についても同様に研究を進めた。1)短期的アプローチについては、1757年に発行されたイギリス国債を中心に、証券保有者が市場において誰にどの程度の債券を売却したのか、イングランド銀行所蔵の取引記録のデータ化およびデータの数量的な処理をすすめた。その結果、特定銘柄の債券に即して、数年スパンにおける債券の取引実態を浮き彫りにすることができた。市場のキープレイヤーを数名特定することにも成功し、特定の「公債請負人」が発行市場のみならず、流通市場においても、重要な仲介者として認めることができた。これは、近世再末期の金融市場の構造を理解するうえで、重要なファクト・ファインディングであると考えられる。2)中長期的アプローチについては、平成29年度では19世紀における女性投資家の動向を探ったが、平成30年度では20世紀に焦点を当て、第一次世界大戦でイギリス政府が発行した戦時公債の一般民衆よる消化動向を、1970年代までの長期的なスパンで評価した。具体的には、「国民貯蓄運動」の消長を第一次世界大戦から1970年代までの60年間のなかで追跡することで、下層中流階級や労働者階級の「貯蓄者」=「投資家」たちが、どのような貯蓄=投資性向を見せたのか、という点を見定め、そこから1970年代を金融市場上の画期とみなすことができ、一般の投資家の性質がこの時期の前後に劇的に変化すること、近世からの超長期的な持続性が1970年代のグローバル化の前後で断絶することなどの知見を得た。この成果は学術書に論文として公表した。以上より平成30年度の研究進捗状況はおおむね良好といえるが、事情により外国出張が不可能となり資料の一部を収集することができなかった。そのため、平成31年度(令和元年度)にまで研究期間を延長した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究で採用している二つの視点、すなわち近世金融市場の短期的な評価と中長期的な評価について、それぞれ重要な新知見が得られており、また、研究成果の逐次公開も順調に進んでいるため、当初計画で想定されていた学術的な成果をほぼ得られていると考えられる。しかし、研究代表者が平成30年度に研究機関を異動したこと、また、研究代表者の健康上の問題により、平成30年度に予定していた外国出張が不可能となった。そのため、この出張によって得られるはずの史料を利用することができなくなった。これに対して、すでに収集分析していた史料の分析及び中長期的アプローチで得られた知見による研究成果の公表に計画を切り替えた。その結果、短期的アプローチにおいて、ロンドン市場側からの分析は当初計画よりも進展し、中長期アプローチにおける第二次世界大戦後の評価については、それぞれ研究計画で想定していた以上の成果を得ることができた。しかし、短期的アプローチにおけるアムステルダム市場側からの近世金融市場の評価については、資料が得られなかったことが影響して、十分に検討を進めることができなかった。そこで、当初計画では、平成30年度で事業を終了する予定であったが、事業計画を変更して、平成31年度(令和元年度)までに1年間事業計画を延長した。これによって、当初予期していなかったことにたいして、対応することとなった。したがって、研究成果およびその内容については、平成30年度時点では当初の予定を上回ったものの、一部研究進捗状況の遅れが認められることから、やや遅れていると評価するにいたった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画を延長することにより、1)短期的アプローチについてはアムステルダム金融市場に関係する史料収集および分析を進めることで、その成果の学術雑誌論文への公表に着手する。2)中長期的アプローチについては、学会報告の内容を学術雑誌に論文として公表する。同時に、国民貯蓄運動の全体像について、単著の公刊により成果の公表をすすめる。
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Causes of Carryover |
本年度に大阪経済大学から関西学院大学に異動したが、新任のため勤務先での諸業務のスケジュールの見通しがつかず、夏期休暇中に予定していた史料収集のための外国出張を断念せざるを得なくなった。さらに、夏期休暇以外にも外国出張が可能な期間を検討したが、認定されている身体障碍の症状(難聴)が悪化したため、航空機での長時間移動が困難となり、補助事業期間内のヨーロッパへの出張が困難となった。以上の理由により、未使用額が生じた。こうした未使用額については、平成31年度(令和元年度)では、昨年度に実行できなかった史料収集を目的とした外国出張および研究成果の発表を目的とした国内出張のための旅費として使用する。また、収集した資料の分析に必要な各種分析ソフトの購入費用としても使用するとともに、外国語での研究成果公表のために英文校閲費としても使用する予定である。
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