2017 Fiscal Year Research-status Report
女が戦争を語るとき―ライフ・ヒストリーのなかの世界大戦―
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15K02965
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Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
林田 敏子 摂南大学, 外国語学部, 教授 (10340853)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 西洋史 / イギリス史 / 大戦 / ジェンダー / セクシュアリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は20世紀の二つの大戦を戦間期を含む一連の社会変動ととらえることで、大戦がジェンダー構造に与えた影響を長期的視点からさぐることを目的としている。 本年度は「軍隊と性」をめぐる問題を(1)駐留軍のセクシュアリティ、(2)軍隊内レズビアニズムという二つの観点からさぐった。(1)に関しては、まず、両大戦期のフランスやドイツに考察の対象を拡大することで比較史の視点をとり入れながら、軍とセクシュアリティをめぐる先行研究を批判的に摂取した。また、さまざまな国の軍隊が駐留したフランスのルーアンの事例をとりあげ、軍隊に属する多国籍(他人種)、多職種の男性たちが地域住民と取り結んだ関係をセクシュアリティの観点から考察した。(2)に関しては、第二次世界大戦期のイギリス陸軍で秘密裏に作成された軍隊内レズビアニズムへの対処マニュアルの分析を通して、軍が組織内の同性愛(とりわけレズビアニズム)をめぐる問題にどのように対処しようとしていたかを分析した。著名な女性医師が作成にかかわったこのマニュアルは、軍隊という特殊な場(その閉鎖的で不自由な環境、および女性に与えられる通常社会とは異なるステイタス)が女性同士の同性愛を助長しているとの危機意識に貫かれていた 。兵士同士のホモソーシャルでホモセクシュアルな関係性についてはすでにすぐれた研究が存在するが、こうした軍隊内の性をめぐる問題にジェンダーという変数を組み込むことの重要性が明らかになった。 以上の研究成果を、「セクシュアリティ研究の現在」(『女性とジェンダーの歴史』第4号、2017年)および、「書評 レギーナ・ミュールホイザー著(姫岡とし子監訳)『戦場の性―独ソ戦下のドイツ兵と女性たち』」(『女性とジェンダーの歴史』第5号、2018年)の2編にまとめ、公刊した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は「軍隊と性」をめぐる問題を(1)駐留軍のセクシュアリティ、(2)軍隊内レズビアニズムという二つの観点から掘り下げた。計画段階では、第二次世界大戦期イギリスにおける軍隊内同性愛をめぐる問題のみを扱う予定であったが、軍の「そと」と「うち」という二つの側面から分析する必要を感じたため、比較史の視点をとり入れつつ駐留軍が地域社会と取り結んだ性的関係にも考察の対象を広げた。そのため、とくに(1)に関しては、まだ論文にまとめる作業が残っているものの、(1)(2)のテーマに沿った研究成果をあげることができたため、研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、大戦の語りの変遷と大戦像の構築 / 再構築に注目しながら研究の総仕上げをおこなう。1930年代、50年代、70 年代という3つの画期のうち、とりわけ70年代は、体験者へのインタビューという形で大戦の記録化が精力的におこなわれた時期である。そこには、ベトナム戦争を契機とする国際的な反戦運動の高まりや、記憶の風化に対する危機感が反映されている。WWI 期についてはIWM のDepart of Sound Records(聴き取り調査史料)、WWII 期についてはIWM の史料に加えThe Second World War Experience Center(SWWEC)の史料ももちいながら、女性の「語り」を分析する。
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Causes of Carryover |
(理由)海外および国内出張の費用および史料複写代を多く見積もっていたが、本年度よりオンラインサーヴィスを開始した文書館やデジタルカメラでの撮影が許可された文書館が複数あったため、支出をおさえることができた。また、購入を予定していた専門図書や一次史料の価格が全般的に低く、デジタル史料も導入されたことで、図書購入費用もおさえることができた。
(使用計画)当初は海外出張を予定していなかったが、論文を執筆する過程で、史料収集や現地調査の必要性があらたに生じたため、2週間程度の海外出張を実施する計画である。また、比較史の観点が有効であることが明らかになったため、さらに幅広いテーマの専門図書や史料をとりそろえる必要がある。
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Research Products
(2 results)