2016 Fiscal Year Research-status Report

1930年代のポーランドにおけるシオニズムの思想と行動

Research Project

Project/Area Number	15K02968
Research Institution	Nagano Prefectural College
Principal Investigator	安井教浩長野県短期大学, その他部局等, 教授 (10310517)
Project Period (FY)	2015-04-01 – 2018-03-31
Keywords	シオニズム / ユダヤ人 / ポーランド / 少数民族 / ベラルーシ / ウクライナ / リトアニア / 民族主義
Outline of Annual Research Achievements	本年度は、史料調査と研究成果発表の双方において、望ましい成果をあげることが出来た。まず、史料調査については、1930年代におけるポーランド・シオニズムの特質を、ユダヤ人の視点からだけでなく、他の少数派諸民族との関係性にも留意しながら解明することを目的とする本研究にとって、第二次世界大戦前にはポーランドの東部諸県を構成し、ユダヤ人を含む非ポーランド系の諸民族がとりわけ多く居住していた地域におけるシオニズムの動向についての考察が欠かせない。そこで、昨年のリトアニアおよびウクライナでの史料調査につづき、本年度はベラルーシでの史料調査を実施した。現地での調査対象とその目的は、(1) 旧ヴィルノ県を構成していた諸郡を訪ね、ユダヤ人社会の痕跡をはじめとする戦間期の名残を確認すること、(2)ブレストの州文書館で、官憲資料を閲覧すること、の2つに分類される。そのいずれにおいても、現地の専門家の協力を得て、予想以上の成果を上げることができた。一方、研究成果の発表についても、大きな成果を上げることができた。研究代表者は、現在、本研究と密接に関係したテーマを扱っている国際共同研究 (ポーランド学術・高等教育省「人文学の発展のための国家的プログラム採択研究」（課題名: Cohesion Building of Multiethnic Societies 10.C-21.C.)に参加しており、昨年3月はそこで研究発表を行った。本年度は、その発表内容のうち、本研究の主題である1930年代におけるポーランド・シオニズムと関わる部分についての考察を深めた英語論文 “Solidarity Fading Away: The European Nationalities Congress and the Jews in the Shadow of National Socialism”を執筆した。
Current Status of Research Progress	Current Status of Research Progress 3: Progress in research has been slightly delayed. Reason 本年度の課題として設定されていたのは、とりわけ次の二点であった。 (1)3種類のシオニスト日刊紙（Nasz Przeglad、Nowy Dziennik、Chwila）を素材として、1930年代におけるポーランド・シオニズムの基本的特徴について、その全体像を把握すること。 (2)ポーランド・シオニズムの変容をポーランド・ナショナリズムの展開とをパラレルに検討するのに必要な、修正派シオニズムの機関紙 Trybuna Narodu をはじめとする史料を速やかに入手し、その分析に努めること。しかし、その遂行に遅れが生じたのは、主として次の理由による。まず、上記の日刊紙は、本研究を開始するにあたり、いずれもデジタル化され公開されていることが確認できていた。しかし、ポーランドの場合、デジタル資料のネット上での利用はしばしば支障をきたす不安定さをもつため、研究申請段階では、マイクロフィルムでの購入を予定していた。しかし、査定による申請額からの減額や海外での史料調査が想定以上に出費を強いるものとなったために、2年度目の計画においては、マイクロでの入手を断念し、ネット上での利用に切り替えることにした。ところが、上記3紙のうち、ポーランド国立図書館の配信するNasz Przeglad および Chwila については、途中から、事実上利用に耐えない(同館に問い合わせたところ、著作権問題絡みの混乱であるという)状況に陥り、やむなくNasz Przeglad のみ、1930年代分のマイクロを私費で購入した(21万円)。これは、課題(2)の遂行にも影響した。本年度当初には、月刊誌であるTrybuna Narodu マイクロの私費購入を考えていたが、さらなる私費購入は断念せざるをえず、幸いにもイェルサレムの図書館による同誌のデジタル化・公開を知り、ネット上での入手に努めているが、時間を要している。
Strategy for Future Research Activity	本研究の最重要史料である3種類のシオニスト系主要日刊紙（Nasz Przeglad、Nowy Dziennik、Chwila）のうち、「現在の進捗状況」に記したような理由から Chwila の入手は断念せざるをえないものの、マイクロフィルムで入手できたNasz Przegladと、ネット上での利用が可能なNowy Dziennikを用いて、1930年代におけるポーランド・シオニズムの基本的特徴について、その全体像を把握することに全力をあげたい。また、月刊誌Trybuna Narodu も、その後ネット上で安定的に利用できているので、同誌を素材に修正派シオニズムの動向、とりわけそのイデオロギーの分析をすすめ、本研究の特徴の一つである1930年代のポーランド・ナショナリズムとの比較を試みたい。海外での調査、とりわけリトアニア、ベラルーシ、ウクライナでの調査は、史料の入手や発掘を目的とするものではあるが、現地の専門家との交流や歴史的遺構の見学は、史料分析の際に大いに役立つことを実感している。そこで今秋には、リトアニアでの調査を再度実施する予定である。また、ポーランドにおける国際共同研究では、本年度もワークショップの実施が予定されており、そこではポーランドの旧東部諸県における諸民族の社会・経済的な諸関係について報告を行うことになっており、報告後はそれを英語論文として発信していくつもりである。
Remarks	ポーランド学術・高等教育省「人文学の発展のための国家的プログラム採択研究」 (課題番号: 8124/MH/IH/14）（課題名: Cohesion Building of Multiethnic Societies 10.C-21.C.）研究代表者: プシェミスワフ・ヴィシェフスキ (Przemyslaw Wiszewski)