2015 Fiscal Year Research-status Report
20世紀前半東中欧における国境変動と子どもの越境的移動
Project/Area Number |
15K02969
|
Research Institution | Kochi National College of Technology |
Principal Investigator |
江口 布由子 高知工業高等専門学校, 総合科学科, 准教授 (20531619)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | オーストリア史 / 近現代史 / 子ども史 / ナショナリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度の研究成果は大きく分けて二つある。まず、本研究に関する文献収集である。現代における難民問題や国際的な児童労働ネットワーク・児童労働問題への関心の高まりと相関して、近年、子どもの難民や移民に関する歴史研究が蓄積されている。しかしながら、管見の限りではあるが、とくに日本語圏においては研究成果の包括的に収集している箇所は少ない(あるいはほとんどない)。そのため、本研究ではまず英語とドイツ語文献を中心に、20世紀前半の子どもの難民や移民に関する文献を収集した。また、子どもの保護を正当化あるいは制度化(なぜ、保護するのか、あるいはどのように保護するのか)する上で、国際的なネットワークを持つ優生思想が大きな影響力をもった。そのため、国際的な優生思想グループやネットワークに関する文献も収集した。 また、本研究では、旧ハプスブルク帝国領を主たるフィールドとしている。帝国解体後の国境再編は、子どもの保護において決定的な意味を持ち、逆に、「子どもを保護する」という名目と実践が国境再編に影響を与えた。そのため、継承国のなかでもオーストリアを中心に国境再編時の線引きや紛争地域の実態に関する近年の研究をサーヴェイした。この成果は、2015年12月明治大学で開催された「現代史研究会」のシンポジウム「オーストリア国民を考える」にて、「東中欧のナショナリズムをめぐる近年の議論--「国民への冷淡さnational indifference」を中心に」と題する報告の中で、一部をまとめ発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概ね順調に進展しており、とくに先行研究のサーヴェイでは新しい視角を得た。また、「現代史研究会」での報告においては、本テーマについての活発な議論が行われ、研究フィールドを越えた関心を得たと考えられる。ただし春に予定していたオーストリアでの調査・研究が実施できなかったので、これを2016年度以降で埋め合わせる必要がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
2015年春に予定していた海外旅費は、2016年度に使用する予定である。2016年6月には「オーストリア現代史大会」(グラーツ)での発表が許され、本研究の成果報告ができることになった。この報告では、帝国崩壊後の東中欧において、(生物学的)父親から養育費を得るための裁判を通じて、子どもが国境を移動した、という実態をオーストリアの優生学の文脈のなかで位置づけ考察する予定である。本国際学会には、オーストリア近現代史の大家であるH.コンラート教授や、家族社会史の第一人者K.カーサー教授が参加する予定である。また、カーサ-教授には、本報告のコメンテーターをしていただく。ここで得た知見を、今後の研究に反映させたい。 また、2015年度の収集した文献をもとに研究調査論文を査読論文として投稿したいと考えている。
|
Causes of Carryover |
出席する国際学会の日程が、2016年度にずれ込み、2015年度の旅費を使えなかったため
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年6月の現代史学会(オーストリア)での報告に際し、旅費として計上する。
|
Research Products
(2 results)