2016 Fiscal Year Research-status Report
江戸遺跡と窯資料による肥前色絵磁器の躍進事情の意匠・技術的解明と罹災文化財の復元
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15K02973
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
樋口 和美 (水本和美) 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 講師 (80610295)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
二宮 修治 東京学芸大学, 教育学部, 研究員 (30107718)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 考古学 / 文化財科学 / 陶磁器 / 肥前 / 近世 / 色絵 / 技術 / 分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、3回の研究会と6回の出張・視察等を行った。また、これらに並行して、17世紀の肥前磁器のデータ蒐集作業(水本)、胎土分析(二宮・新免)を行った。 研究会は、以下である。2016年8月21日、村上伸之氏を招聘。報告者はほかに、二宮、水本、樋口智寛氏(合同)、2016年10月28日~11月2日、佐賀・有田で、東洋陶磁学会に参加、研究報告を行った。2017年2月25日、東京・上野御徒町で、研究会開催。17世紀前半の陶磁器に関する考古学研究。赤松和佳氏を招聘。報告者はほかに水本、藤掛泰尚氏、小野田恵氏。河合修氏(静岡県)・新宅輝久氏(富山)ほか、杉谷氏らを交え、この間蒐集した17世紀肥前磁器に関する情報交換を行う。 出 張は以下である。2016年8月28日~9月2日(6日間)、京都・同志社大学にてWAC-8(第8回世界考古学会議)に参加、「アートと考古学」のセッションでポスター発表を行った(水本)。2016年10月9日~10月13日(5日間)、中国・上海市・景徳鎮市。上海博物館、景徳鎮の御器廠、景徳鎮市陶磁考古研究所、景徳鎮陶磁大学、東郊学堂などで景徳鎮磁器などの資料を見学、研究者と交流した。2016年10月28日~11月2日(5日間)、佐賀・有田で、東洋陶磁学会参加のため出張。2016年12月3日~12月5日(3日間)、兵庫県・大手前大学にて、関西近世考古学研究会大会に参加、赤松和佳氏と次回の研究会について打合せ。2017年1月14日~1月17日(4日間)、佐賀・有田の近世陶磁研究会に参加、伊万里市にて日峯社下窯跡の発掘調査と出土資料(未報告資料)を閲覧。2017年3月28日~3月30日、佐賀・有田、伊万里。有田町教委の村上伸之氏に面会の上、27年度に着手した材料研究資料である、中樽一丁目・泉山一丁目遺跡の中間報告会を行う(水本・二宮、新免*協力者)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度より継続してきた、17世紀前半の肥前磁器の蒐集作業と、有田町教委から提供いただいている中樽一丁目遺跡・泉山一丁目遺跡の胎土分析について、成果が得られはじめた。17世紀前半の肥前磁器では、東洋陶磁学会に併せて、水本が東京(江戸)、埼玉、山梨、長野など関東を、藤掛泰尚氏が神奈川、河合修氏が静岡県、小野田恵氏が愛知県、新宅輝久氏が富山県などを集めた。水本は再度、東日本の17世紀代の陶磁器を蒐集中である。この途中経過については、2017年2月25日の研究会において、赤松和佳氏による西日本の分析を参考として、今後の検討の方向性を確認できた。 また、8月21日に東京藝術大学において開催した研究会では、昨年度に関係者の説明・勉強会で行ってきプレゼンテーションを研究者に公開する目的で、陶磁器と文化財科学による研究会を開催して、意見交換の機会を得た。陶磁器の考古学研究者と美術史研究者のほか、七宝の研究者らもまじえて、活発な意見公開を行うことができた。特に、村上伸之氏の研究成果を東京の研究者に改めて周知することができたのは大きな成果である。また、分担者である二宮修治の「磁器の生産と流通に関する分析地球科学的視点からの調査・研究-胎土(素地土)の化学組成を中心に-」は、胎土分析の指針として根幹をなすものとなった。よって、昨年度、目標の一つに掲げていた、研究者間の情報共有の場を設けることは達成することが出来た。景徳鎮、佐賀県(有田・伊万里)などの出張では、考古学による最新の出土陶片を閲覧することができ、また、材料についても知見が得られている。さらに、同じく目標の一つであった、景徳鎮での資料実見では短期間ながらも、祥瑞の理解について有益な示唆を得ている。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)考古学テータの蒐集・解析:17世紀中葉の技術革新の事情解明においては、消費地遺跡の動向は重要である。28年度については、前述のとおり、江戸を中心とする関東・甲信越を中心とした地域理解を深めることが出来たが、これらを東日本という枠組み、さらに、西日本との比較で理解することを目標とする。消費地遺跡の動向を踏まえ、陶磁器の生産動向について、「意匠」側面を明らかにしておきたい。なお、景徳鎮調査によって、景徳鎮磁器の材料や、古染付・祥瑞の生産について、情報が得られたため、これらを考古学・美術史・文化財科学研究の際に、前提として活用することとしたい。 (2)自然科学分析:27年度の生産地への出張によって得られた中樽一丁目遺跡・泉山一丁目遺跡の資料については、胎土分析を行い、中間報告は終えたが、ここで追加調査の必要性が生じ、追加資料を入手することとなった。追加資料については、時代性という観点から、上記遺跡において得られている出土陶片を主として調査する予定とした。 (3)復元に向けて:、顔料等の絵付について再度、生産地(佐賀)出張を行い調査することを予定している。 (4)研究全体の統合に向けて:本研究では、考古学、文化財科学、美術史、の各分野の視点から17世紀中葉の肥前磁器の技術の躍進事情の解明に向けて、資料の収集と解析、文化財科学的な調査を進めている。これら各分野においては、考古学では筆者の主たるフィールドである江戸遺跡とともに東日本の考古資料の収集に広げ、ここから得られた情報の咀嚼を、考古学でも生産地研究と対照させ、さらに美術史研究、を合わせて理解することにしている。そして、こうした成果を活かしながら、分析研究者と情報交換を重ねていき、胎土の分析調査に発展させた。今年度は、さらに、絵付技術に展開をしながら、上記の成果の最終的な統合に向けて、梶を切っていく予定である。
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Causes of Carryover |
予算執行については、おおむね予定の計画通りで進めているが、復元について材料調査により時間をかけている。27年度には美術史資料収集の人件費充当分を28年度執行分に充てた。28年度については、予定通り中国出張ほか調査を敢行したが、復元について課題を残した。調査費が膨らんだため、復元について材料費・実験費・人件費等の充当分を少し減額せざるを得ない。このため、この部分は材料に関する調査を進めながら、見直しを図りつつ、最終的な成果統合に向かって進めたい。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年度は最終年となるため、ここまでの成果集約について積極的に進めたい。成果の公開については、研究会を拡大して行う予定である。当初の予定通り、(1)考古学資料の収集を終えてこれらのとりまとめを行う。(2)自然科学的手法を用いた分析については、まず、胎土について明らかにすることとする。①地球科学的な視点にたった胎土の形成過程と、②遺跡出土資料に基づく、人の手による加工の過程に分けて考えることとする。17世紀中葉という視点から、景徳鎮磁器について得られた知見を考察の参考としたい。(3)伝世品と景徳鎮磁器の調査は継続的に行うものとする。できる限り伝世品の実見を行いたい。(4)28年度までの成果の整理、胎土のほか、絵付けに関しての調査・研究も行うものとする。(5)成果の統合・とりまとめについても行い、これらについて周知化を行うよう研究会を実施する。
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