2015 Fiscal Year Research-status Report
登呂遺跡を活用した初期農耕文化についての実験考古学的研究
Project/Area Number |
15K02976
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
篠原 和大 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (30262067)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 登呂遺跡 / 初期農耕文化 / 弥生時代 / 実験考古学 / 木製農耕具 / 栽培実験 / 農耕社会システム |
Outline of Annual Research Achievements |
日本列島に定着した水稲耕作を基盤とする農耕がどのような内容をもって初期の農耕社会に組み込まれたかを明らかにすることは、列島の農耕社会の本質を追究する上でも極めて重要なテーマである。本研究では、①筆者が復元や実験的な方法を用いて再現し、追究しつつある初期農耕の実態について、より実験考古学的な方法を用いて検証し、その労働の内容や編成等の評価を試み、②これまでに明らかにしつつある静岡清水平野における初期農耕形成モデル(「登呂モデル」)にそうした労働の評価を組み込むことによって、初期農耕社会の社会組織としての本質や生産手段の変化などから想定されていた変容過程の本質を追究することを主要な目的として研究を行う。平成27年度は水稲栽培実験を行う中で、主にその準備にかかわる作業等として以下の内容の研究を実施した。 (1)静岡と周辺地域で出土している弥生時代農耕具の素材・形態および組成を検討し、実験に使用する農耕具・工具を選定し順次復元を行った。鍬類の一部とともに原始機の織機部材の復元も行った。(2) これまでの実験実績をもとに、登呂遺跡復元水田を利用してイネの栽培実験を行い、復元した農耕具を実験の過程で使用し、その用途機能や耐久性を検討するための実験方法を検討した。(3)併行して農耕具使用法に関して近代化以前の農民使用法や民俗例などの資料を収集し検討した。農耕具の使用による耐久性や使用痕の分析方法に関係して、3Dスキャナーを購入し、木製農具本体の記録や観察方法について検討した。(4) (1)(2)(3)の過程、成果について検討し28年度以降の実験方法・課題を検討し、「動作リスト」の原案を作成した。(5)比較検討対象として大韓民国(別経費)、福岡県、奈良県、神奈川県および静岡県内の資料等を視察調査した。また、研究の基礎資料となる関係図書・調査報告書等を購入した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度に計画した内容を【研究実績の概要】に記したように、おおむね順調に実施できた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、引き続き登呂遺跡での水稲栽培実験を行う中で、平成27年度に行った農耕具の復元や記録・分析方法の検討をもとに使用実験を中心に以下のような研究を行っていく予定である。 (1)平成27年度に実施した道具の使用実験の検討結果をもとに、本格的なデータ収集を目的とした登呂遺跡復元水田での道具使用実験を実施する。まず、年度当初に以降必要な木製道具類の完成を目指し、必要な製作復元実験を行う。登呂遺跡復元実験を利用してのイネの栽培実験を行う中でそれらの道具類を使用する実験を行い必要な記録・分析を行う。強湿地環境や畑作に関しても道具の製作や使用を試行する。(2)実験内容を前回科研費で検討した静岡清水平野をモデルとした農耕形成のプロセスモデル(「登呂モデル」)に対応させて評価を検討し、その成果について検討会を開催する。まず、道具の製作実験や使用実験の定量的なデータ(コスト・時間・耐久性等)について、「登呂モデル」の中の弥生中期「有東モデル」(石器加工)、弥生後期「登呂モデル」(鉄器加工)と対照し、生産システムの視点から諸課題を検討して、二つのモデルの相対化を図る。また、道具の製作実験や使用実験の定性的なデータ(使用法・作業適応性等)について、「登呂モデル」の通年的な作業内容や時期的な変遷などとの対照をはかり、農耕社会システムの具体化や低地環境への適応状況等の詳細について検討する。(3)引き続き、 国内外の農具や農耕生産跡を検出した遺跡等を視察し比較検討を行う。中華人民共和国および関西、北陸、東北方面を予定。また、研究の基礎資料となる関係図書・調査報告書等を購入する。(4)学会等において中間的な成果報告を行い、専門家との議論を通じて研究の深化をはかる。
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