2015 Fiscal Year Research-status Report
エジプトの文化財危機管理における画像アーカイブシステムの研究
Project/Area Number |
15K02977
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
河江 肖剰 名古屋大学, 文学研究科, 研究員 (00726987)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
安室 喜弘 関西大学, 環境都市工学部, 准教授 (50335478)
金谷 一朗 長崎県立大学, 情報システム学部, 教授 (50314555)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 文化財 / エジプト考古学 / 画像システム / 三次元計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
2011年に起こった「アラブの春」以後、エジプトでは非合法の発掘や博物館での遺物の略奪が相次いだが、文化財の被害状況を確認したり、修復作業に使用したりすることが出来る画像システムは、エジプト当局には存在しなかった。 そこで、その対応策のひとつとして、本研究では高価なレーザー計測機器の導入や、考古写真の専門家を育てることではなく、エジプト人の遺跡査察官や修復専門家が「写真を撮る気軽さ」で遺物や遺構の三次元データを収集し、ネット上でアーカイブ化し、自由に使える画像システムを開発することにした。 本年度は、現地予備調査をメンフィス・エリアの2箇所の遺跡で行った。一箇所は、4500年間の都市遺構が発見されているギザのヘイト・エル=グーラブ遺跡である。ここで発掘調査を行っているアシュラフ・アブデル・アジーズ氏に、デジタル画像を用いた三次元記録の有用性と方法を伝え、テストとして、発見された「台座の遺構」の三次元モデルの生成を行ってもらった。結果、デジタル画像からPhotoScanを用いて3D化を行うことに成功し、この発掘調査隊では2016年度からテスト的に、デジタル撮影による三次元データを収集することが決まった。 もう一箇所は、南サッカラにあるジェドカラー・イセシィ王のピラミッド複合体である。ここの発掘隊長であるサイード・モハンマド氏のリクエストにより、第一塔門の床面の線画生成を行う際、通常の測量方法ではなく、デジタル写真を用いた3Dモデルの生成、そしてそこから高解像度の床面の画像を生成することとなった。この実際の試みは、今シーズンから行われる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、「現地のオペレーションシステム」の確立と、クラウド上の「アーカイブシステム」の開発の2本柱から成る。現地のオペレーションシステムの開発は、現場のニーズに合わせるべく、申請者らが関わりの深いギザやサッカラなどのメンフィス・エリアのリサーチから始めた。ギザ査察局の写真記録班の隊長でもあり、ヘイト・エル=グーラブ遺跡(別名:「ピラミッド・タウン」)のエリア・スーパーバイザーでもあるアシュラフ・アブデル・アジーズ氏に協力のもと、三次元形状データ生成用の撮影、データのアップロード、三次元モデルの生成を行った。三次元データ生成のための撮影は、対象物の形状を網羅的に、映像や写真のデジタルデータを取得するだけでなく、ID、場所や日時、対象の名称、方角など基本的な記録も行わなければならない。この作業は、ギザの『中央墓地』で行う予定であったが、現地の要望に合わせ、上述のヘイト・エル=グーラブ遺跡という都市遺構で行った。2015年度は、アーカイブシステムの開発に着手したばかりであることから、アップロード後の三次元モデル生成は、既製ソフトであるPhotoScanで行った。結果、遺構の三次元モデルが生成された。さらに、その三次元データのシェア方法としてAdobe AcrobatによるPDFの報告書として、一部、用いられた。 これに加え、南サッカラにあるジェドカラー・イセシィ王のピラミッド複合体では、現地のニーズに合わせた遺跡の撮影方法を、発掘隊長であるサイード・モハンマド氏と協議し、通常の線画生成ではなく、デジタル画像から三次元モデルを作り、その後、高解像度のオルソ画像を生成することで、新しい記録方法を用いるテストを行うことにした。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究のもう一つの柱である、クラウド上の「アーカイブシステム」の開発は、共同研究者の関西大学の安室喜弘准教授が中心となって行っている。これは現在、関西大学が主体で行っている、修復作業が進むサッカラのイドトウの墓で試している。2016年度からは、このアーカイブシステムを発展させ、本研究で用いることのできる画像システムの適用すべく、同じく共同研究者である長崎県立大学の金谷一朗教授と本格的に開発研究を行っていく予定である。 現場では、2015年度は主に、遺跡でのニーズに合わせたテスト撮影を行ってきたが、本年度から来年度にかけては、実験考古学として、エジプトの考古省で作られている遺物のレプリカを用い、形状データの取得、その後、レプリカを意図的に破損し、取得データを用いた修復まで一連の流れを検証する(「レプリカの写真計測」→「三次元形状データの生成」→「意図的にレプリカを破壊」→「三次元形状データからのモデリング」)。これらのプロセスを受け、最終的に、他の遺跡や博物館でも適応可能な汎用性のあるシステムを研究開発する。これらは、考古省のギザ査察局の写真記録班を率いているアシュラフ・アブデル・アジーズ氏、南サッカラにあるジェドカラー・イセシィ王の発掘隊長であるサイード・モハンマド氏、そして考古省の修復保全局のディレクターであるサイード・アブドゥ・エル=ハメド博士と研究代表者の河江が調整しながら進めていく。
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Causes of Carryover |
エジプトの現地のニーズを優先させるために、2015年度に行う予定であった、遺物のレプリカを購入し、その形状データの取得、その後、レプリカを意図的に破損し、取得データを用いた修復まで一連の流れを検証する作業を2016年度に行うことにしたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年度は、博物館での被害状況を確認したり、修復作業に使用したりすることが出来る画像システムを確認するために、上述の「レプリカの写真計測」→「三次元形状データの生成」→「意図的にレプリカを破壊」→「三次元形状データからのモデリング」を行う。
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