2015 Fiscal Year Research-status Report
水稲農耕文化が生みだした二次的生態系の生成と消滅に関する考古学的研究
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15K02989
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
北條 芳隆 東海大学, 文学部, 教授 (10243693)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 水田環境 / 2次的生態系 / マルタニシ / ナキオカオオヤドカリ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、沖縄県西表島網取遺跡をフィールドとして、近世併行期に営まれた集落内の廃棄土坑の再発掘調査を実施し、昨年度からの課題であったマルタニシの集積を確認すると共に、下層の掘り下げをおこない、マルタニシの帰属層位の確定を試みた。 また出土したマルタニシ10点、および同一層位から出土した獣骨5点を対象として放射性炭素年代測定を実施した。その結果、マルタニシは18世紀後半代から20世紀までの値を示した。18世紀代の資料が6点を占めるため、上限の年代はほぼ安定しているし、20世紀代の資料については現地での聞き取り調査結果とも符合する。つまり網取遺跡では近世併行期から近現代にいたるまで、水田環境に適応したマルタニシの採取と獲得が常態化しており、いわゆる水田漁撈が安定的に展開されていたことが判明した。 ただし網取遺跡の廃棄土坑については調査中に台風の襲来を受けたため最下層まで到達しておらず、マルタニシ初現年代の追求が喫緊の課題として残されている。さらにマルタニシの生物学的な系統関係の調査資料として出土資料がどこまで有効活用できるかの判定が今後の課題となる。 本年度の研究によって、近世併行期におけるマルタニシ養殖の実態解明には成功したが、網取遺跡の水田跡では、これまでの調査成果によれば16世紀代にまで遡る可能性が指摘されている。近世併行期の耕地開拓によって生成された水田環境と、マルタニシ養殖開始との年代的なギャップをどこまで埋め合わせることができるかが、本研究の今後の最大の眼目となる。 なおナキオカオオヤドカリの調査については、今年度網取湾沿岸部との比較対象をおこなう目的で崎山地区に調査の対象を広げた。ただし集落跡で確認された貝殻内にヤドカリ痕跡は見いだせなかった。生態調査と併せ、引き続き調査の継続が必要となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マルタニシの年代が明らかに近世併行期まで遡ることが確定したため、水田遺構との年代的な平行関係が学術的に押さえられた。基礎事実関係の確定は重要な成果である。 ただし台風の襲来にあって所期の目的であった最下層までの掘削がなしえなかった。そのため(2)の進捗状況評価となった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、まず昨年度未完了であった網取遺跡の集落内廃棄土坑の最下層までの調査を完了させたい。これによって、網取遺跡におけるマルタニシの利用開始年代に関する当該調査区での基礎資料を整えることとしたい。併せて出土マルタニシの生物学的系統関係把握を試み、定説的な見解である中国南方起源であるといえるのか、あるいは台湾・先島地域の固有種である可能性はあるのかないのか、そのあたりの問題状況の中に、今回の出土遺物を定位できるか否かを絞り込みたいと観がエス。次にナキオカオオヤドカリについては、人間の定住が個体の大型化を促進させた可能性が濃厚であるとはいえ、崎山集落跡でのヤドカリ不在(の可能性大)との状況を踏まえて整合的な解釈に到達しうるか否かの検討が課題である。生物学との連携によって、この課題と向き合うことにしたい。
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Causes of Carryover |
平成27年度に実施した外部委託費(放射性炭素年代測定)に関連する費用および委託先への資料郵送費に関し、当初計画との間で若干の差額が生じたため、6.471円が未支出となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度未使用であった6,471円については、平成28年度に物品費として支出する予定である。
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Research Products
(2 results)