2016 Fiscal Year Research-status Report
日本列島と琉球列島における縄文~近世の動物資源利用の長期的・広域的比較研究
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15K02990
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
樋泉 岳二 明治大学, 研究・知財戦略機構, 研究推進員 (20237035)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 動物資源利用 / 縄文~近世 / 日本列島 / 琉球列島 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.遺跡出土動物遺体の考古学的調査 (1) 日本列島:主要調査地域の関東では,①茨城県陸平貝塚(縄文早期・中期)・御茶園西遺跡(縄文後期),東京都御殿前遺跡(縄文中期),千葉県養安寺遺跡(縄文中期)・加曽利貝塚(縄文中~後期)から出土した動物遺体を同定した.②御殿前遺跡・養安寺遺跡出土貝類の貝殻成長線分析を行った.③千葉県の弥生~近世貝塚データを集成し,貝類利用の変遷を明らかにした.関東地方以外では,④鹿児島大構内遺跡(6世紀)出土脊椎動物遺体を同定した(当該地域・時代では初の分析例).⑤鹿児島県立埋蔵文化財センター所蔵の高橋貝塚(弥生時代の九州-琉球交易の拠点遺跡)資料を実見し,その特徴を確認した.①~④は論文・報告書刊行済みまたは原稿受理済である. (2) 琉球列島:①沖縄県渡具知東原遺跡の脊椎動物遺体を同定し,資料の少ない貝塚時代前2期のデータを得た(論文受理済).②喜界島崩リ遺跡(貝塚時代前4~5期・グスク時代)から出土した動物遺体を同定し,データの少ない当該地域・時期の様相を明らかにした(報告書印刷中).また奄美諸島の貝塚時代後期~グスク時代の動物遺体データを集成し,その変遷を検討した(論文準備中).⑤沖縄県平安山原遺跡(貝塚時代後期~戦前),伊礼原遺跡(貝塚時代後期~近世)出土動物遺体を同定し,貝塚時代後期~戦前期の動物資源利用の長期的変遷を明らかにした(報告書刊行済).④沖縄県勝連城跡出土ウシ骨の年代測定・C/N同位体分析を行い,グスク時代初期のウシ飼育形態に関する新知見を得たほか,他遺跡の分析試料の選定を進めた. 2.自然環境(沿岸環境)の調査 ①平成27年度に実施した鹿児島県吹上浜の調査データのまとめと検討を行った(学会発表準備中).②熊本県緑川河口干潟において,昨年4月の熊本地震の影響を確認するための予備調査を行い,良好な状態であることを確認した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は研究実施計画に従い,以下の調査・分析を実施して成果を得た. 1.遺跡出土動物遺体の考古学的調査:「研究実績の概要」に記したとおり,平成27年度に引き続き,日本列島(関東・九州)と琉球列島の双方において,多数の遺跡での動物遺体の分析および既存の文献データの収集を実施し,日本列島と琉球列島の各時代遺跡における動物資源利用の変遷モデルを確立するための基礎データの蓄積を着実に進めている. 2.自然環境(沿岸環境)の調査:平成27年度に実施した鹿児島県吹上浜の調査によって得られたデータを検討した結果,多様な海岸環境と貝類の分布状況の関係性が把握され,近代以降の沿岸(干潟)環境改変が著しい日本列島において,過去の漁場環境のモデルとなり得ることが確認された.平成28年度の春に予定していた九州西岸(熊本県緑川河口干潟)の調査は,同年4月の熊本地震による調査地一帯の被災状況が大きかったため実施を延期してきたが,本年3月に行った予備調査によって調査可能であることが確認されたため,本年8月に本調査を実施する予定で準備を進めている.また,同じく平成28年度に実施予定であった千葉県小櫃川河口干潟については,海外研究者から貝類サンプル(貝殻の微量元素分析による古水温・塩分濃度の推定)のリクエストを受けたことから,これに応じる形で調査計画を再調整し,本年5月に実施する予定である. 以上のように,研究はおおむね計画通り,順調に進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
1.遺跡出土動物遺体の考古学的調査:前年度までの成果を踏まえ,データ収集が不足している地域・時代に重点を置いて未分析の動物遺体資料の追加分析および文献資料の探索・収集を行う.また,琉球列島の遺跡産ウシ骨の年代測定を集中的に実施して,その導入年代を明らかにする.さらに,最終年度となる平成29年度は収集されたデータを整理・体系化し,各時代の動物遺体群の組成変遷を定量的に把握して,日本列島・琉球列島の双方において縄文から近世にいたるまでの動物資源利用変遷の通時的モデルを構築し,これらを比較して両地域の動物資源利用の相違点を明確にする. 2.自然環境調査:「現在までの進捗状況」に記したとおり,本年5月に千葉県小櫃川河口干潟,本年8月に熊本県緑川河口干潟の本調査を実施する.これらの調査で得られた結果を基にして,日本列島と琉球列島の双方における沿岸域の資源環境を比較検討し,それぞれの資源環境としての特質(たとえば動物資源の多様性や資源量など)の違いを明らかにする. 最後に,1・2の成果を統合的に比較検討して,これら双方の歴史的変遷の特色とその背景について,自然環境的要因および文化・社会的要因の両側面から評価する.
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Causes of Carryover |
(1)「現在までの進捗状況」にも記したとおり,平成28年度の春に予定していた熊本県緑川河口干潟の調査が,同年4月の熊本地震の影響で延期を余儀なくされ,また千葉県小櫃川河口干潟調査についても先述の理由により実施時期が変更となり,いずれも調査実施が平成29年度にずれ込んだため,これら調査のために計上していた予算(とくに旅費)が未使用となったこと,(2) 予定していた年代測定用の試料の選定に予想以上に時間がかかったため,年度内に予定していた測定を実施できなかったことが主な理由である.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
(1) 「現在までの進捗状況」に記したとおり,本年5月に千葉県小櫃川河口干潟,本年8月に熊本県緑川河口干潟の本調査を実施する. (2) 年代測定用の試料についてはすでに選定を終えているので,平成29年度に集中的に測定を行う.
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