2017 Fiscal Year Research-status Report
カナダ契約移民の輩出と渡航後の地域的展開をめぐる歴史地理学的研究
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15K03025
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
河原 典史 立命館大学, 文学部, 教授 (60278489)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | カナダ / 日本人移民 / カンバーランド / 炭鉱 / ホワイトロック / 製材業 / 日本庭園 |
Outline of Annual Research Achievements |
第二次世界大戦以前、カナダへ渡った日本人の就業について、先行研究では漁業、製材業や商業が中心に描かれてきた。しかし、彼らの多くは自由移民であったが、決して少なくなかった契約移民の存在は無視できない。自由移民と契約移民との輩出・受容構造の差異を導く必要がある。本研究では、カナダ日本人移民史研究が看過してきた契約移民をめぐって、20 世紀初頭における日本・カナダ両国の移民政策を背景にした輩出・受容構造、さらに渡加後の転業や再移動について歴史地理学的アプローチから明らかにする。 2017年度では、熊本県からの契約移民の資料を整理し、バンクーバー島カンバーランドへの入植、廃鉱後の移動・転業、ならびに2世の活動について考察した。戦中の敵性外国人として内陸への強制移動や、戦後におけるトロントを中心とするカナダ東部への移動の前に、すでに戦前にも成人となった2世たちは移動・就業していたのである。次に、アメリカとの国境付近に位置するホワイトロックへの製材業への契約移民について、現地調査を行なった。おもに沖縄県からの契約移民のあと、初期に鉄道契約移民として渡航した福井県出身者が転入していた。また、熊本県からの契約移民が1930年代には庭園業へ転向した事実も確認できた。彼らの一部はブリティッシュ・コロンビア大学の新渡戸稲造日本庭園の造園に関わった。戦後、彼らの2世のなかには、新しい新渡戸庭園の造園に携わった人もいた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、(1)アメリカとかかわるカナダへの契約移民会社の成立、(2)日本における特定地域からの契約移民の輩出構造、(3)カナダにおける契約移民の組織化、(4)契約期間の終了後の転業や地域的拡散、の4点について実証的に解明することを到達目標とする。限られた期間において目的を達成するため、これまで等閑視されてきた東京移民合資会社をとりあげ、同社から多くの契約移民を輩出した宮城・栃木・神奈川・静岡・福井・福岡・熊本・鹿児島・沖縄県出身者の展開を把握する。 そのうち、2015年度では福井県を中心とする鉄道契約移民について考察した。そして、2016年度には鹿児島県からの契約移民がサケ缶詰産業に転業した事例を説明した。2017年度では、熊本県から炭鉱夫として渡加した契約移民の転業を考察した。さらに、先住の沖縄県、後から他所から転入した福井県出身者が多くを占めていた米加国境付近に位置するホワイトロックでの製材業に関わる日本人移民について考察した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、日本の特定地域からの契約移民の輩出構造を把握する。外交史料館所蔵の「明治四十年移民取扱人を経由セル海外渡航者名」には、東京移民合資会社による約1,500 名のカナダ契約移民が網羅されている。すでに入手している名簿を概観すると、彼らは宮城・栃木・神奈川・静岡・福井・岡山・福岡・熊本・鹿児島・沖縄県の10 県に限定されている。ただし、出身地については県レベルまでの記載にとどまるため、同館所蔵の「海外旅券下附表」を精査し、市町村単位まで確認する必要が生じる。これらの資料には渡加目的が記されているため、炭鉱契約移民と鉄道契約移民との差異が見いだせる。つまり、特定の業種への就業種の違いを意図した契約移民の輩出構造に関わる地域性が見いだせるに違いない。 事例とする炭鉱契約移民については、熊本県有明海沿岸出身者の関係者とは連絡がついているので、早急に資料整理・聞き取り調査などに着手する。2018年度では、栃木県をはじめとする未着手の県からの輩出者についても検討を進めたい。
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Causes of Carryover |
カナダでの現地調査が、校務のため当初の予定よりも短期であった。そのため、海外旅費が当初の予定よりも減額となった。 (使用計画) 2018年度には計画的な海外調査を心がけ、旅費の適正な執行を行なう。
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