2019 Fiscal Year Research-status Report
カナダ契約移民の輩出と渡航後の地域的展開をめぐる歴史地理学的研究
Project/Area Number |
15K03025
|
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
河原 典史 立命館大学, 文学部, 教授 (60278489)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | カナダ / 日本人移民 / 契約移民 / 鉄道保線工 / 製材業 / 庭園業 / 水産移民 |
Outline of Annual Research Achievements |
第二次世界大戦以前、カナダへ渡った日本人の就業について、先行研究では漁業、製材業や商業が中心に描かれてきた。しかし、彼らの多くは自由移民であったが、決して少なくなかった契約移民の存在は無視できない。自由移民と契約移民との輩出・受容構造の差異を導く必要がある。本研究では、カナダ日本人移民史研究が看過してきた契約移民をめぐって、20 世紀初頭における日本・カナダ両国の移民政策を背景にした輩出・受容構造、さらに渡加後の転業や再移動について歴史地理学的アプローチから明らかにした。 最終年度の2019年度では、これまでの事例研究について、北米への日本人移民史をめぐる先行研究とその方法を概観し、歴史地理学的研究の特徴を検討した。事例とした東京移民合資会社によるカナダ契約移民の多くは、鉄道保線工として渡加した。しかし、契約期間を終えると彼らは、おもに自由移民として先に活躍していた和歌山県出身者などのようにサケ缶詰産業、さらには庭園業などに転業し、居住地を移した。 ただし、彼らの居住地は、必ずしもバンクーバーをはじめとする大都市周辺ではなかったようである。つまり、カナダ日本人社会において自由移民が開拓した労働市場に、任期終了後の契約移民が加わったのである。このように、自由・契約移民を総合的に把握し、県レベルにとどまらない空間スケールから考察する歴史地理学的アプローチによって、カナダ日本人移民の全体像がはじめて解き明かされるのである。 また、重要な転業先であったサケ缶詰産業について、当時の日本における缶詰製造業に関する貴重資料を復刻・監修した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017(平成29)年度、アメリカとの国境付近に位置するホワイトロックへの製材業への契約移民について、現地調査を行なった。そこへは、おもに沖縄県からの契約移民のあと、初期に鉄道契約移民として渡航した福井県出身者が転入していた。渡航当初、鉄道保線工と炭坑夫に就くことが多かったため、ホワイトロックを事例とした場合、新たな契約移民の史実が明らかになる。今後の課題としたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
報告者が構築してきた歴史地理学的アプローチを駆使すれば、契約移民の輩出にあたって血縁・地縁関係を基礎とした集団移住が行われ、カナダでの契約終了にともなう転居・転業もそのネットワークを維持しつつ展開していたことが明らかになった。特に、後発であった東京移民合資会社の鉄道契約移民は、契約終了後に日本人がほとんどいなかったカナダ大陸横断鉄道(Canadian Pacific Railway、以下CPR)沿線で、カナダ中央平原における20世紀初頭の農業開拓に寄与したと思われる。今後の課題として、契約移民の転業と拡散的移動とカナダの農業開発との関係性についての実証する。それは、単なる日本人移民史だけでなく日本・カナダ史への新たな提言になる。
|
Causes of Carryover |
カナダ・バンクーバー周辺への調査を予定していたが、他の研究助成金での執行を優先したため、余剰が生じた。2020年度では、研究成果の出版にあたっての資料整理や製図作業、ならびに英文要旨のネイティブチェックへの謝金などに執行する予定である。
|