2020 Fiscal Year Research-status Report
カナダ契約移民の輩出と渡航後の地域的展開をめぐる歴史地理学的研究
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15K03025
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
河原 典史 立命館大学, 文学部, 教授 (60278489)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | カナダ / 鉄道契約移民 / 水産移民 / 東京移民合資会社 / 日加用達会社 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度では、鉄道契約移民としてカナダへ渡航した日本人が水産業への転出したシステムについて総合的に検討した。三尾村を中心とする和歌山県出身者の多くは移民会社を介した契約移民ではなく、自己の意思や血縁・地縁関係者による呼び寄せで渡航した自由移民が多かった。製材業や同胞を顧客とする商業・サービス業に就いた滋賀県出身者も、同様であった。そのため、カナダ日本人移民史研究では、ハワイや南米などに多かった契約移民へほとんどアプローチされてこなかった。その理由の一つに、カナダ契約移民の多くが長期間の定住へ発展することの多い農業移民ではなく炭鉱夫、とくに鉄道保線工であったことが指摘される。 移民会社の1つである東京移民合資会社と提携したカナダの労働者派遣会社である日加用達会社を経て、粗末な宿舎、時には貨車が充てられた山奥での厳しい作業のなか、冬季から春季の融雪時には雪崩災害の危険にもさらされた鉄道保線工では、契約期間が満了するとサケ缶詰産業をはじめとする他産業へと転業する場合が多かった。なかには、それ以前に脱走を企てて転業するものもあり、その活動記録、特に日本語資料やオーラルデータが残りにくい。かかる点より、契約移民としての基礎的な実証研究、さらには他産業への転業については看過されてきた。 自由移民として当初から水産業に就いた日本人移民だけでなく、契約移民からの転業者についても「水産移民」として検討しなければならない。これまでのカナダ日本人移民史では自由移民と契約移民は交錯せず、個別に論じられてきたのである。このように、筆者が実践してきた歴史地理学的アプローチを駆使すれば、契約移民の輩出にあたって血縁・地縁関係を基礎とした集団移住が行われ、カナダでの契約終了にともなう移動と転業の諸相も、そのネットワークを維持しつつ展開していたことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の最終年度にあたる2019年度末にコロナ禍が生じたため、最終的な資料の確認が叶わなかった。しかし、2020年度にはそれらを精読し、拙著にまとめることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
水産業への転業だけでなく、東京移民合資会社の鉄道契約移民、ならびに炭鉱業へ就いた日本人移民について、渡航当時の諸相について単行本をまとめたい。そこでは、20世紀初頭におけるカナダ太平洋鉄道沿線のアルバータ・マニトバ・サスカチュワン州に広がるカナダ平原の農業開拓に寄与したことを明らかにする。このような契約移民の転業と拡散的移動の実証的研究は、単なる日本人移民史だけでなく、カナダ開拓史への新たな提言になるにちがいない。
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Research Products
(2 results)